「一点突破」シン・ゴジラ moviebuffさんの映画レビュー(感想・評価)
一点突破
「このぐらいで観客は満足するだろう。」
そんな志じゃ、絶対にこんな映画は作れない。
例えば、2014年ハリウッド版のゴジラ。自分にとっては期待はずれのゴジラだった。なんというか、全てを抑えようとしてそのどれも65点ぐらいの感じ・・。
ゴジラの長い歴史を考えると、それぞれ皆好きな時代があって、全ての意見を抑えると、どうしてもこじんまり、まとまらざるを得ない。伝統がゴジラ映画を不自由にしているのだ。
その点庵野版ゴジラの潔いのは、彼の見たかったゴジラを遠慮なくやってるってこと。
それをやり切れるのが大学の文化祭だったらわかる。すごいのは、彼がそれをやったのは、東宝から頼まれた巨費を投じた「本物のゴジラ」だということ。
色々な人の思惑が絡む大作で、個人的な映画を妥協せず撮る。それがこの作品の驚きへとつながっている。「こんなことやっていいんだ!」という驚き。ナディア、エヴァといった過去の彼の作品がテレビから流れてきた時にファンが体験したものにも通じる驚きだ。
「本家・本流」を殺すには、コピーでもアンチでもなく、それより面白い「俺の考えた本流」をぶつけるしかない。
日本政府が機能しない中、はぐれもので作られたチームが日本を救う。
その物語はもちろん、ハリウッドのコピーを10分の1の予算でやってるだけ、TVドラマのスペシャル版をやってるだけの、日本の娯楽映画の現状に対する、この映画に携わった人々の挑戦とも重なってくるのだ。
追記
作品の中でアメリカや国連に日本がゴジラに関する作戦の主導権を奪われるかもしれないという描写があったけど、あれはそのまま日本のゴジラ映画が置かれている状況に置き換えられる。
ハリウッド版ゴジラは今後も継続され、「VS怪獣もの」として制作されていく予定だ。レジェンダリーピクチャーズはラドン、モスラ、キングギドラの権利を東宝から借りているし、キングコング対ゴジラの制作も既に決定している。
つまり、ゴジラというブランドのイメージはこのままだと、今後ハリウッド中心のものになっていく可能性さえある。その危機感が東宝にはあったと思うのだ。だからこその原点回帰であり、特撮愛に溢れた庵野監督の起用なのだと思う。
「諦めず、最後までこの国を見捨てずにやろう。」
「シンゴジラ」は日本映画界の起死回生のゴジラ奪回作戦でもあるのだと思う。
コメントをしていただいてありがとうございます!そうですね、映画がだんだんとヒット商品のようにシステム的に作られたものばかりになる中、この作品のようにクリエイターのわがままを貫いた作品をもっと見たいなと思います。
今ではあまりにも王道なので、忘れがちですが、スターウォーズが当時の主流の娯楽映画のスタイルと全く違っていたように、結局監督が個人的に面白いと思うものを作る事が、映画史を変えてしまう事は多々あると思います。(今のスターウォーズシリーズは皮肉にも正にゴジラと同じ伝統を配慮する苦しみに陥ってますが・・。)