「庵野風味の濃い快作だが…」シン・ゴジラ たかひでさんの映画レビュー(感想・評価)
庵野風味の濃い快作だが…
現代の日本がゴジラに襲われたらどうなるかを極めてリアルにシミュレートした作品になっていた。
政府、霞が関、自治体、自衛隊、警察、消防、有識者etc、ゴジラに対峙する関係者達が右往左往し、対応が全然進まない中、想定外の事態が次々に起きて更に混乱に拍車が掛かるという展開は極めてリアルで、悪戦苦闘する関係者達の群像劇は非常に興味深く楽しめた。自衛隊による武力行使に至る流れをしっかり見せてくれた点も好印象である。
本作のゴジラは、これまで見たことのない斬新な設定で、最初に全身が登場したときには「えっ!?」と度肝を抜かれた。それが進化し、見慣れた形態になるが、もし進化が続けば最終的にどんな姿になるのか興味を引かれた(翼が生えて大陸間を飛翔する?)。また、和製ゴジラでは初めてのフルCGとなったが、違和感はなく着ぐるみでは不可能なアングルからの見せ方も可能となった。ゆったりとした動作は重厚で、和製ゴジラならではの動きだった。尤も、激しく動かせばCGにボロが出たかも知れず、それを逆手に取った演出だったのかもと邪推した。
自衛隊、米軍による対ゴジラ戦は結構見応えがあった。それでも倒せないゴジラの強さと鉄壁の防御力に、核兵器の使用もやむなしと外国から圧力が掛かる流れには説得力が有った。ただ、「東京を核攻撃」という決定に対する日本人の反応が淡泊だった点は気になった。それこそ日本中が大騒ぎになり、多国籍軍離脱、国連脱退も含め国を二分するような議論になることは必至なのに。
核ミサイル発射のリミットが迫る中で、決死の覚悟でゴジラとの最後の戦いに挑む人々の活躍は、エヴァンゲリオンを彷彿として胸熱だったが、音楽までエヴァというのは少々悪のりが過ぎるのではと感じた。
クライマックスの血液凝固剤をゴジラの口から注入してゴジラを凍結させるシーンは、ゴジラが自棄におとなしく口を開いたまま凝固剤を飲む。生物なら異物を飲まされそうになったら反射的に口を閉じるだろうし、吐き出そうとするはずだが。そしてあの巨体からは信じられないくらい即効で効き目が現れ、あっけなく活動停止する。物足りなさを強く感じた。ラストシーンに衝撃はあったが。
それにしても、凍結したゴジラと日本はその後どうなるのか?ゴジラを下手に刺激すれば活動を再開しかねず、人類は手が出せないだろう。一方、活動を再開すれば核ミサイルが発射されるわけで、疎開した都民は帰宅できない。東京は首都機能を失い、無人の東京の真ん中でゴジラがモニュメントのようにそびえ立つのだろう。「ゴジラとの共存」は、いつ爆発するか分からない爆弾を抱えた日本の困難な未来を想像させる。
残念だったのは、本作では一般市民からの視点が皆無に等しく、ゴジラに対して絶望感を抱く者が、日本国民でなく一部の対ゴジラ関係者だけという印象を受けたこと。尺の都合はあっただろうが、作品に深みを持たせるためには一般市民からの視点は必要不可欠だと思う。
それと、最も残念な点は、途中までは生物らしかったゴジラが、米軍による攻撃を受けた際に、生物から機械、アニメでよく見る謎の超兵器の様に変質してしまったこと。ゴジラが放射火炎を口から吐き東京を紅蓮の炎に包んだところでは鳥肌が立ったが、その後、背中から全方位ビームを発射したのを見て一気に冷めてしまった。個人的には、怪獣映画が、これを境に実写版エヴァンゲリオンになってしまった印象だ。
とは言え、本作は12年ぶりの和製ゴジラ、日本人にしか作れないゴジラ映画だったと思う。スタッフ、出演者が本気になって取り組み、庵野秀明総監督の往年の名作アニメの風味の濃いかなりの快作になった。アニメで実績の有る庵野監督が実写でも実力を発揮したことは意義深く、今後、製作が再開されるであろう和製ゴジラに道を開いた功績は極めて大きい。ハリウッド版ゴジラの圧倒的な物量に和製ゴジラが対抗する手段も見出せたのではないか。
最後に、本作の続編は望まない。何故なら、あのラストシーンに続くストーリーを想像すると、もうゴジラとは呼べない別物の作品になってしまいそうだからだ。