「演出120点なのに全体として70点の作品。」バケモノの子 ねこまんまさんの映画レビュー(感想・評価)
演出120点なのに全体として70点の作品。
細田守作品は時かけ、サマーウォーズ、おおかみこどもに続いて4作目の鑑賞。鑑賞後バケモノの子展も見てきました。
まずひたすらに絵と音響効果、BGMとのリンクが素晴らしい。絵コンテがバケモノの子展に展示されていましたが、細田守さんのこの2点への拘りには脱帽でした。音響効果を味わう為だけでも、映画館で見る価値があると感じました。キャラクターの動きや表情、場面の雰囲気の作り方が非常に秀逸で、画面に惹きこまれました。
しかしそれだけ集中して見ているにも関わらず、物語後半に行くに従ってストーリーや脚本のアラが目立つようになり非常に残念でした。特にヒロインの楓の存在意義がわからない。前半のバケモノの世界でのストーリーが非常にわかりやすく「強くなる!」という目標に向かって動いているのに、後半でストーリーの筋がすり替えられているように感じてしまいました。しかも最終的にバケモノの世界をあっさり捨て、喧嘩していた父親との確執もいつの間にか解消し、人間なのにいつの間にか諸々の状況を完璧に察した楓はバケモノの世界に来て「九太を支えた人」とよばれる……結局楓は何をしたのか?前半でバケモノの世界を好きになった人ほど、後半の無理矢理なストーリー展開に納得いかないのではないでしょうか。
後半、説明的な台詞が増え、不自然で長い説教台詞が多かったことにストレスを感じざるを得ませんでした。特に九太が一郎彦の心の闇を吸収して?という計画の伏線がないので唐突すぎて感動できませんでした。さらに楓のキャラクターや蓮への思い、蓮の楓への思いがあまり描かれないまま、楓の抱えていることをこれまた長台詞で説明したり、一郎彦に説教をするシーンは「なんでこの子なの?」という感想で興醒めでした。
全体的に、張ってある伏線は丸見えで不自然だし、張っておいてほしかった伏線はなくて唐突な展開についていけない、といった印象でした。ただ場面場面の楽しさ、迫力は素晴らしいものだったので、細かいことを考えなければ勢いで感動し涙も出るかもしれません。
繰り返しますが細田守さんの映像演出は素晴らしいものなので、今後は原作のあるものを作るか、有能な脚本家とタッグを組んで作品を作るのがいいのではないでしょうか。