アメリカン・ドリーマー 理想の代償のレビュー・感想・評価
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描きたかったのは何?
ただまっとうな商いを志すことがいかに大変かと言う、ある誠実な経営者の苦難の社会派ドラマ。
石油卸業の世界だから闇取引やカルテル、政治家の買収なども日常茶飯事なのだろう、そんな業界で顧客第一の誠実な商いを社是とする若き経営者を邦題はアメリカン・ドリーマーと半ば皮肉っている、もはや道徳的に生きることが理想とは・・。
原題はA Most Violent Year(最も暴力的な年)で映画の設定の1981年はベトナム戦争後の荒廃もありNYの犯罪率が跳ねあがっていたことを指しています。映画では主人公の会社のタンクローリーが襲われ灯油が頻繁に奪われる事件が象徴的です。事件解決に警察も手いっぱいと放置状態、映画の終わり近くになってやっと犯人を主人公が追い詰めて裏を知るのだが、事件ものと思って観るとテンポが悪すぎてダレてくる。
世の中、綺麗ごとだけでは生きられないという現実も判らないではないがそれが成り立って一時かも知れないがカタルシスを得られるからこその映画でしょう。
主人公の誠実さの裏に妻のしたたかな経理操作とは、築き上げてきた会社はまさに砂上の楼閣、車にぶつかってきた瀕死の鹿、安楽死すら暴力反対の夫はためらうが妻はあっさりと銃でけりをつけてしまうシーンなどを見てしまうと主人公への応援の気持ち、感情移入が虚しくなって辛い、かっての自身のような運転手の若者の自殺すら看過するのみ、なぜこんな皮肉な描き方をたらたら見せるのか、「若者よ現実を見てしたたかに生なさい・・」と言うのが裏テーマなのか、製作・脚本・監督のJ・C・チャンダーの思い入れの真意が今一量りかねる脚色でした。
タイトルなし
オスカーアイザック、ジェシカチャスティンの演技、展開に引き込まれ見応えあった。あくまで理想の形で成功を諦めず追い求める夫とギャングの娘として生きてきた結果を追い求める妻は時折反発しあいながらも互いを支える姿は良かった。結局誰がオイルを盗んでいたのか、ラスト検事との闘いはどうなるのかがわからず残念。
まっすぐだけでは通用しない
難しい映画というのが印象。主人公は実に愚直に真っ当なプロセスでビジネスを成功させようとする。しかし、余りにもプロセスを重視しすぎ、また自分のパートナーが自分と同じ思いで行動してくれるものと期待しすぎている。冷静に考えれば、一度大怪我をした運転手の復帰には慎重でなければならないし、時期が時期であればなおさらだ。精神論をいくら説いても、現場でどう対応するのか具体的な指示を出さないと現場が困惑する。この場合は、最悪のケースになってしまったが、イマイチリスク管理に頭が回っていないよう。金銭面でも危うい行動をする主人公が不安で妻がへそくりを貯めていたが、そのことを知らされるとブチ切れ。本当にこんな人で魑魅魍魎が徘徊しているアメリカでビジネスを成功されることができるのか?
一方で行動力は結構あり、危機を何とか乗り越えるだけの人脈やパワーも持ち合わせてはいる。
リアリティがあるような、しかし無いような評価が難しい映画という印象。
よかった
80年代初頭の物騒なニューヨークが完璧に再現されていて、特に地下鉄や線路近くのスラムが素晴らしかった。警察が全く治安を守る方に機能しておらず、主人公を追い詰める側にばかり機能しているのが気の毒だった。
お金はきちんと融資の段取りをつけてから手付を払えばこんな騒動にならなかっただろうに、ちょっとしたボタンの掛け違いのようなやりとりで苦労しているのがドラマとして物足りなかった。
主人公が強盗を追いかえるところはとてもスリリングだった。
前半でドライバーが強盗と一緒に逃げるのは変だった。
主人公がほぼ潔白な側でいるのがちょっときれいごとのように感じた。えぐい側面も描いて欲しかった。
持つべきは。
アメリカン・ドリームなんていう言葉自体既に理想としか
思えない、多くの代償を払い尚且つ挫折した人々の多い
当時のアメリカ社会を鋭く風刺した一本。高潔な人間ほど
失敗に弱く潰しが利かないことが多い。常に綺麗事ばかり
並べて窮地に追い込まれると責任逃れ(自分はちっとも悪く
ないんだから)な発言をする馬鹿野郎さんはけっこう多い。
計算高い妻と高潔(悪くいえば世間知らず)な夫のカップル
には一代でオイルビジネスを築き上げたという自負がある。
しかし急成長を引っ提げ進出してくれば必ず妨害されるし、
古参の人々に100%嫌われるのも致し方ない。何らかの方法
で自分らのビジネスを守らにゃいかんその時期に、数々の
嫌がらせが会社を襲い、そんな中でもクリーンビジネスを
貫こうとする夫に妻は嫌気がさしてくる。何か分かるな~。
面白いことに妻の父親はギャングだった。ということは、
初めおそらく何らかの資金を得て会社を設立させた可能性
があるので当局も放っておかない(脱税の容疑)というワケ。
終に主人公アベルは破滅寸前のところまで持っていかれる。
特に殺人は横行(何人かは死ぬけど)しないし、愉快なマネー
ゲームが展開されるでもない今作には、終始グレーの触感
が続いて息が詰まってくるが、最後まで苦しんだアベルが
妻の驚く提案を受け容れ確信を手にしていく工程がリアル。
(持つべきは渡る世間を知り尽くした伴侶。かしらねぇ^^;)
現実の不条理さが至る所に隠されている
久々に考えさせられる映画だった.
始まって30分程度はこの映画の主題が見えないかもしれない.ただ,汚いオイル業界でのし上がった主人公アベルの強さと高潔さが描かれている.しかし,社員からライバル会社の社長まですべからく現実に抗しきれない弱い人間性が現れ,妻のアナにもそれが現れる.会社の存亡をかけた大勝負に敗れそうな現実に遭遇したとき,その弱さはついにアベルも飲み込む.今,家で思い返しても登場人物たちの弱さを単純に責められない不条理を感じるそんな映画.
全ての登場人物たちに作品の主題が埋め込まれ,緻密に練られている印象。
成功とは、なかなか理想どうりにはいかないことを痛感させられました
本作は、1970年代のニューヨークが舞台というのがポイント。それだけで、暴力的で危険なイメージが漂います。
例えば映画史を飾る作品でも、「狼よさらば」「セルピコ」「タクシードライバー」など、当時のニューヨークを舞台にした映画は、いずれも暴力に満ち、警察の腐敗や無力さも描かれていました。
しかし、統計史上、犯罪が最も多かったのは81年なのだそうです。この作品の原題は「最も暴力的な年」。なんでこんなタイトルか調べてみるまで気がつきませんでした。どうりで、主人公が聞いているカーラジオから流れてくるニュースは、なぜか凶悪事件の発生ばかりだったので何か意味があるのか気になっていたのです。それをBGM代わりにして、犯罪が多発する、人の心も荒廃した当時のニューヨークの時代背景をよく伝えてくれました。
ちなみに、ニューヨークの犯罪は81年をピークに高い発生率が続きますが、90年代になって激減します。そして時代は、マーティン・スコセッシ監督が「ウルフ・オブ・ウォールストリート」で描いたような、狂騒に突入していくのでした。
そんなデンジャラスな時代に、犯罪が多発する都市で、まっとうな野心を持つ主人公が、自分なりの正しい道を歩んでアメリカン・ドリームをつかもうとしたとき、さまざまな妨害を受けながらも“正しさ”と向き合う様を粘り強くあぶりだした、かみ応えのある人間ドラマだといえそうです。
クリーンで良心価格をモットーに、石油の売買で成功した移民のアベル(オスカー・アイザック)は、事業拡大のため石油プラントの土地付き購入を計画します。そしてやっとの思いで契約締結にこぎ着け、手付金を全財産で支払ったのでした。それは30日以内に残金を用意しなければ、手付金は戻らない契約でした。アベルは銀行から融資の約束を取り付けます。しかし、その頃彼の会社のトラック運転手たちが襲われ、トラックごと石油を盗まれる事件が続発していたのです。しかもアベルの新居には夜中に不審者が現れ、妻(ジェシカ・チャステイン)は不安を訴えます。一方、これまで一切不正経理をしないことを守ってきたのに、あろう事か、検事(デヴィッド・オイェロウォ)がアベルを脱税や詐欺の疑いで捜査に取りかかってきたのでした。
さらに追い打ちをかけて、襲撃を受けた運転手が、許可なく道路上で発砲。そのまま逃走して警察に追われる身となってしまいます。それがきっかけで、銀行が融資を断ってきます。融資を当てにして、全財産を手付金に回していたアベルは、新たな融資を見つけられるか、それとも破産か絶体絶命のピンチに陥ります。正式契約までわずか30日。そして残された日数は、わずか3日間でした。
本作で、チャンダー監督の演出は、渋くて奇をてらったところがありません。配役は実力者揃いですが、著名俳優は出演していません。ストーリー展開も、主人公が耐え続ける物語にはカタルシスもありません。そんなスターも、派手な見せ場も、過剰に劇的な展開も避けて、真の主役である時代と街を、くっきりと浮かび上がらせた演出に好感が持てました。
遠くには摩天楼の群れを展望しつつも、主人公の佇む足もとの道路は雪が残って、凍てつき。荒涼としています。そんな景色が、成功をつかもうと手を伸ばすが、足を引っ張られて身動きが出来ないアベルと重なって見えて仕方ありませんでした。
カメラは華やかな通りよりも、殺風景な裏通りや落書きに埋め尽くされた地下鉄構内や車内などを捉えていきます。当時のニューヨークが、やや黄色がかった色調で実にリアルに描かれていることが特筆ものでしょう。
ただ、主人公が正体不明の存在に追い詰められていく過程は、何が起こるのか分からないハラハラとした緊迫感があり、まるでサスペンス映画のノリなんです。
「理想の代償」とは、言い得て妙なる副題です。本作を見ていると、成功とは何かということを考えさせられます。アベルが語る成功とは、結果がすべてではなく、どんな方法で成功したのか、プロセスが重要なのだというのです。そのために不正や暴力を行ってはならないと、ストイックに自らを戒めていたのでした。しかし、そんなアベルの理想には代償が付きものだったのです。
自社の運転手が次々襲撃されて、運転手が重症を負わされても、拳銃による武装は頑なに認めませんでした。そんなことをしたら、ますます敵が凶悪化して対抗してくるだけ。心を強く持って対処しろと精神論を説くのみでした。しかし、精神論だけでは襲撃は止まりません。アベルの理想論を聞かされるたびに、語ってる内容が、日本の安保法制反対派の平和ボケした論理に見えてきて仕方なかったのです。
ただ銃社会のアメリカでも、無許可で発砲したら犯罪と見なされて、運転手どころか所属会社まで処罰の対象にされかねません。大金の融資審査を抱えていたアベルにとって、運転手の暴発が怖かったという一面もあったでしょう。
加えて、アベルの妻の存在が、アベルとは好対照なのです。マフィアのボスの娘だった妻は、ことあるごとにアベルの理想論に反発するのです。しかし、万策尽きてマフィア上がりの同業者からヤバいカネを貸してもらおうとするアベルに、妻は内助の功を発揮するのですね。これはネタバレになるのでいえませんが、てっきり妻の父親のマフィアからお金を工面してしてくるものだと思っていましたが、前々違っていました。
妻が夫に隠れて何をやっていたのが、ネタバレされるとき、検察の執拗な捜査も、伏線となっていたことが分かります。そして、アベルの頑なな理想論も屈するしかなかったのです。
経営理念は大切だし、近年話題になっている企業コンプライアンスの遵守を無視するととんでもない事件に発展することが騒がれています。しかし本作を見ると金科玉条の理想論だけでは、成功はおぼつかないことが痛いほど伝わってきます。
安保法制を、違憲といっているあなた!正論が必ずしも最善とは限らないものなのですよ。
最後に★一つ削ったのは、後半の犯人捜しがやや性急だったからです。残り時間を考えると仕方なかったかもしれません。それでも、映画通を唸らせる、夢と暴力の狭間のグレーゾーンへ見る者を誘う力作だと思います。マフィア映画ではないのに最上級のそれを見ているような錯覚に陥ることでしょう。内側に激しさを持つ男を演じたアイザック、したたかさもある妻を演じたチャステイン、名優2人の芝居も底光りしていました。
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