「邦題のミスリード感ハンパない本作を全力で擁護させていただきます!」アメリカン・ドリーマー 理想の代償 さぽしゃさんの映画レビュー(感想・評価)
邦題のミスリード感ハンパない本作を全力で擁護させていただきます!
この邦題、永遠に忘れてください。
てか、どこから持って来たんだ!?
アメリカで夢を実現しようとする男の、サクセスストーリー的なこのタイトル。また色んなサイトで、批評家さん達があらすじ的なこと&レビューされてますが、違ってることが多いのでこれも忘れてください!
普遍的な「アメリカン・ドリーム」がテーマって????
ちがーーーう!
本作はそんなお話では全くありません!!
あまりにも違いすぎて、唖然としました。
本作のテーマはこれですよ。
ビジネスに大事なのは"プロセス"なのか"結果"なのか?
『シャーリー&ヒンダ ウォール街を出禁になった2人』では、結果重視ではいかん!お金儲けできりゃいいってもんじゃないっしょ!とアメリカ、世界経済に警鐘を鳴らしていました。
本作も、そんなテーマがちょっとあります。たぶん。
1981年アメリカ・NY
冒頭、深緑色のトラックが2人組の男に襲われ、運転手はぼっこぼこにされるシーンから始まります。どうやらこのトラックの会社では、同様の被害が相次いでいるようです。はっきりとした業種は語られませんが、トラックは石油輸送用っぽいです。
主人公アベル(オスカー・アイザック)は、たぶん石油元売り企業の社長で、たぶん業界では新参者のようです。おそらくこの地域の同業他社は、アベルの会社を良く思っていません。
このアベルは、ユダヤ人から土地を買おうとしています。たぶん、石油発掘場じゃないのかな?
あ、おそらく、たぶん、って連発してすみません。だって説明してくれないもの。
そして主役のオスカー・アイザック。
色々と出演されてますけど、やはり主演だった"インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌"の掴み所のない飄々としたキャラのイメージが強いです。
この人って、何を考えてるか分かんない顔つきだと思いません?
アベルの奥さんアナ役に、ジェシカ・チャスティン。
ジェシカは"ファミリー・ツリー""テイク・シェルター"の物静かで優しく自己主張せず、でも芯の強い奥さんのイメージが強いです。心の中で色んな葛藤があっても、それを口に出さない耐える奥さん。
本作では物静かではなく、ズバズバと自分の考えをいう奥さんを演じています。
夫を支える良妻ですが、今までジェシカが演じてきた役になかった強さが全面に出た女性です(胸元の露出がすごいです)。
ジェシカも、何考えてるか分からない顔つきなんですよね。
でも、この何を考えてるか分かんないもやっとした主役に、この"たぶん"連発の全く説明しないストーリー。でもね、なんだか分かんないけど怖いんです。不穏な空気だけは感じるんです。深い霧の中を歩くような、不安感と恐怖を感じるんです。
アベルはトラックが石油ごと奪われ、運転手は怪我をし、会社的にも損害を負っているのに、具体的な防御策を考えていません。具体的な防御とは、運転者に護身用の拳銃を持たせることです。
アベルは正しい方法で、会社を経営したいと思っています。拳銃を運転者に持たせることは、彼が思う"正しい金儲けの仕方ではない"のです。
しかし検察局はそんなアベルの会社を、しつこく捜査しています。アナの父親がギャングで、たぶんアベルの会社設立時には、何かしらの手助けをしていると考えてるからだと思います。語られませんので、分かりません。
事実、アナは帳簿を任されており、現在の日本の中小企業であれば、節税対策としてどこでもやってることを(やってない方がおかしいです)、たぶん過剰にしています。
金儲けが目的ではなく、"正しい方法で結果的にお金儲けができる"ことを実行しようとするアベルと、"結果の為には時に手段を選ばず"なアナ。この対照的な2人の考えは、どちらが正しいのか?会社のゴールは儲けること。利益が出なければ、会社は立ち行かない。そこは綺麗事ではないです。私は都市銀に居たので、業績不振の会社がどんな扱いを受けるか、目のあたりにして来ました。
じゃ、その為に何をやってもいいのか?法律に違反しなければいい?自分の会社だけ儲かればいい?
正しい道を行こうとするアベル。
アベルに正しい道を歩ませるために陰を生きるアナ。
それに気付かないアベル。
アベルの石油を奪う強盗。アベルの会社の運転者は弱いから。弱い者から奪う強者。
それを知っていながらその2人組から石油を買うアベルの競合他社。
競合他社にとっては新参者に地元を荒らされている。死活問題。どちら側に立つかで正義は変わる。
アベルが石油を奪われていることを知っていながら、手を打たない検察局。それどころか、ギャングとの癒着や、叩けば何か出るのがないかと執拗に張り付く検事。その検事にも、仄暗い野望がある。
石油の利権を巡る数々の戦争は、皆さんご存知の通りです。本作は石油業界や中小企業の経営者が必ずぶつかる壁を描きながら、同時に、現代の石油の利権を巡る争いのメタファーでもあると思います。あ、たぶん。
つまりそれは、アメリカ批判に繋がります。そしてアベルの姿に、日本を見たりします。
少なくとも、サクセス・ストーリーじゃありません。
そもそも主人公は、そこを目的としていません。
原題が" A Most Violent Year"です。1981年が、犯罪統計史上で最も犯罪が多かった年らしいです。過酷な時代に、正しく生きようとした男の話です。そんな男が出した結論に、大きく唸らずにはいられませんでした。