「静かだけど力強い、勇気が湧く物語」サンドラの週末 ピンクマティーニさんの映画レビュー(感想・評価)
静かだけど力強い、勇気が湧く物語
よかったです。
解雇を言い渡された主人公が同僚に協力を求めて説得して回る週末の2日半を描いたもの。
冒頭で、「県営住宅に引っ越せばいい」と言うサンドラに対し、「僕の給料だけでは今の家賃にも足りないし県営住宅には引っ越したくない」と言う夫はどうかと思ったし、家は2階建ての一軒家、交通の不便な地域なのかもしれないが車だって所有している。設定がシングルマザーの方が切迫感があったのではと思ったが、一応、この夫は妻のよき理解者で励まし続けるという役目になっている。お金がないのに食事は出来合いを買ってくるし、しょっちゅうキオスクでペットボトル飲料を購入する。でも貧しい世帯ほど無駄遣いをしたりするところもリアルだったりする。
同僚たちの反応は三者三様で、義理堅い人もいれば、薄情な人もいる。共通しているのは、彼らの中で誰一人裕福な暮らしをしている者はおらず、週末に副業をしたり子どもを抱えたりしながらなんとか暮らしを守っていることだ。個人の権利が強いフランスでさえ、階級差や被雇用者の生活の不安定な現実を知った。
1人1人の反応に一喜一憂するサンドラ。彼女のせいで同僚の家族や同僚同士にいさかいが起きるのは心苦しい。なんども挫けそうになりながら、夫の励ましや同僚の賛同に気持ちを持ち直し説得を続ける。
どんな結果になるのかと固唾をのんで見守ったが、ひとひねりあるラストがとてもよかった。最後にサンドラが下した正義感あふれる決断に、こちらもすがすがしい気持ちになった。
エンドロールに切り替わっても効果音は流れない。そこで初めて、劇中の効果音がなかったことに気づいた。それぐらい息をつめてサンドラを見守っていたことに気づいたのでした。