「人間としての昭和天皇が活躍する初めての映画?」日本のいちばん長い日 Kazu Annさんの映画レビュー(感想・評価)
人間としての昭和天皇が活躍する初めての映画?
原田眞人監督による2015年製作の日本映画。
配給:松竹、アスミック・エース。
傑作との評判も高い岡本喜八監督による前作は見ている。何故再度作ったかが良く分からず、原田監督・脚本ということで期待度があまり高くなかったせいもあるかもしれないが、映画全体としてはかなりの好印象を持った。
8/15に至る前史、例えば山崎勉演ずる鈴木貫太郎首相の天皇による任命から、役所広司の阿南惟幾の陸軍大臣任命等、が丁寧に描かれていてストーリーは分かりやすかった。山崎と役所の演技もとても良く、史実との整合性は不明ながら、首相も陸大臣も随分と信念を有する魅力的な人物に見えることになった。
そして、何より昭和天皇演じた元木雅弘の演技がとても良かった。意識的に力を抜いたナチュラルな演技と話し方が育ちの良さと知性を醸し出し、天皇としてのリアリティを感じさせた。人間としての天皇陛下が活躍する映画は初めて見た気がする。とても新鮮であった。ポツダム宣言受諾を推し進めた官邸・内閣書記官長の迫水久常を演じた堤真一も好演。力まない自然な演技が素敵だ。
大臣達の会議(御前会議)で何とか受諾派と本土決戦派で互角に持ち込み、超法規的だが天皇の英断(聖断)で降伏を決定するシナリオは、迫水久常が考えたらしい。8/14になっても尚、本土決戦の主張は強力で、降伏決定は際どかったという事実が恐ろしい。映画の描かれ方、即ち首相や天皇が良く頑張ったということでは確かに有るが、際どかった理由には、意思決定に全体利益でなく組織利害が入りこんでしまう日本の意思決定のあり方の欠陥がある様にも思えた。
主役の1人松坂桃李外が演ずる畑中健二の描かれ方に関しては、脚本に違和感を覚えた。彼がひたすらエキセントリックで狂信的で、宮城事件はまるで全て彼が主導した様な描かれ方であった。原作は読んでいないが、上官達が主導している様に見える前作とはかなり描かれ方が異なる。一般的には事件の重要人物と目されている井田正孝陸軍中佐は主導していないのか?史実を捻じ曲げて縁者が乏しい畑中健二に宮城事件の罪を全てなすりつけていないか?事実ベースのリアリティを少々疑ってしまった。
原田作品では毎回思うのだが、説得力持たせる構成部分がいつも弱く、原田眞人は共同脚本にすべきだと思う。ただ今回は元木、山崎、役所、及び堤と主要俳優陣の頑張りで、かなり良い映画にはなっていた。
原作半藤一利、脚本原田眞人。
製作総指揮迫本淳一、エグゼクティブプロデューサー関根真吾、豊島雅郎、プロデューサ榎望、新垣弘隆、撮影柴主高秀、照明宮西孝明、録音照井康政、衣装宮本まさ江、美術原田哲男、編集原田遊人、音楽富貴晴美。
出演は、役所広司(阿南惟幾)、本木雅弘(昭和天皇)、松坂桃李(畑中健二)、堤真一(迫水久常)、山崎努(鈴木貫太郎)、 大場泰正(井田正孝陸軍中佐、軍務課員)、 関口晴雄(竹下正彦陸軍中佐、軍務課員、阿南陸軍大臣の義弟)、 田島俊弥(椎崎二郎陸軍中佐、軍務課員)、神野三鈴(阿南綾子)、蓮佛美沙子(蓮佛)、戸田恵梨香(保木玲子)、野間口徹(館野守男)、池坊由紀、松山ケンイチ(佐々木武雄)。
あ〜、今年もこの季節ですね。
> 井田正孝陸軍中佐は主導していないのか?史実を捻じ曲げて縁者が乏しい畑中健二に宮城事件の罪を全てなすりつけていないか?
前作も観ているからこそのコメント、羨ましいです。俺も早く岡本監督版も観なきゃ、と思います。