「蔓延る怒りの種」怒り parsifalさんの映画レビュー(感想・評価)
蔓延る怒りの種
沖縄、千葉、東京の3つのストーリーが同時進行。東京八王子で起こった残忍な殺人事件の犯人が逃走。3つのストーリーに得体の知れない若い男が現れて、素性もわからず、犯人のモンタージュが出回って疑われてっていうのが骨子。
東京編は、妻夫木とゲイの相手として綾野が同居。彼を疑ったところで彼は消息を絶つが、抱えていた心臓病があって、隣の公園で死んでいた。
千葉編は、風俗店で働いていた娘宮崎と素性がわからない松山とが仲良くなった。顔が似ているということで、「人を殺していないよね」と疑ってしまい消息不明に。借金取りから追いかけられているので、これ以上迷惑をかけられないと。でも、娘が迎えに行って、無事帰ってくる。
沖縄編は、広瀬と佐久本が那覇へ映画を見に行った帰り、森山と会い、飲み屋へ。その帰り、広瀬が米兵にレイプされ、佐久本も森山もそれを救えなかった。しかし、森山は、その後、その本性である凶暴性を現し、那覇の件は、救おうなんて気はさらさらなく、どこかの親父がポリスと叫ぶから、途中でレイプが終わってしまって残念と、本音をぶちまける。森山のことを信じていた佐久本は、はさみで森山を刺殺した。
この3つのストーリーに共通しているのは、社会的な弱者が、目に見えない所で、自分ではどうしようもない状況に置かれているということ。東京編では、施設育ちで心臓病を抱えた青年。千葉編では、風俗店で働く娘に、借金取りから夜逃げした青年。沖縄編では、米兵から暴行された若い娘、派遣会社で軽く扱われる日雇い労働者。その状況を受け入れて、救いがなければどうなるか。外側に向かえば、「怒り」となって森山や佐久本のように殺人へと繋がる。内側に向かえば、綾野や松山のように、ひっそりと生きていくしかない。
沖縄の米軍駐留に対して、反対運動をするなど何かをしなければ問題は解決しない。日本人は、「怒る」ことを忘れていないか?って問いかけの映画なのだと思う。生きるのにしんどいう思いを抱えながら、それを吐き出す場もなければ、それを問題として話をしたり、運動する場がない。そんな人たちのことを忘れていないのか?
妻夫木の今風の若者、綾野の弱弱しさ、宮崎の幼子のような泣き方、松山の影がある自信がなさ、渡辺の雄々しさと繊細さ、森山の爆発力、広瀬の純粋さと儚さ、佐久本の地元民らしさ等、どの演技も秀逸だったのも特筆。
今ある日本の問題を、このような形であぶり出した映画として素晴らしかった。