「疑念と再生」怒り トールさんの映画レビュー(感想・評価)
疑念と再生
同時進行する物語の主要な登場人物の複雑な思いが凝縮されて、観るものに消化不良をおこさせてしまうほどの濃厚な人間ドラマです。
あくまでも個人的見解ですが、この映画のテーマは、愛する人に抱いた疑念とそれに翻弄される登場人物それぞれの心の葛藤、さらには、その疑念が解消されて再び人を信じられるようになる救いの物語と、自分には映りました。
疑念がいっきに解消される怒涛のクライマックスに、登場人物は後悔や安堵、悲しみや喜びを抱いて絶叫し、果たせなかった思いを取り返す為の行動(佐久本宝が広瀬すずのレイプに何も出来なかった負目を晴らす為に森山未來を刺し、落書きを消そうとした事)をとりますが、最後には再び愛しき人を信じられる者として再生される救済の物語です。
宮崎あおいの松山ケンイチを信じきれなかった後悔の号泣はもちろん、渡辺謙も、娘は幸せになれないとの思い込みと、その思いが娘にまともな人は自分を愛してくれないと言う思いをさせてしまった事、さらには松山への疑念を娘に持たせてしまった事への悔恨は、松山との電話での絶叫となっって解消されていきます。
広瀬すずが無人島で消された落書きを見て、全てを理解した上での海への絶叫には、佐久本によって、また再び人を信じられるようになると思わせるような再生の意味が込められているのであり、恋人を失ってしまった妻夫木さえも綾野剛の優しさを知って自分の愚かさに気付いて号泣する姿には、後悔と喪失の涙には違いないが、綾野と知り合う以前の空虚な日々に戻るとは思えず、この出会いと別れによって妻夫木を変えていくだろうとの、救いが見えます。
主な登場人物が何らかの悲しみを抱えていて、しかも優しいのです。
怒りと言うタイトルになった犯人の怒りとは何だったのか。自分にはいまひとつ感情移入出来なくてわかりませんでしたが、何度か観直せば、監督の仕掛けた仕掛けが見えてくるのかもしれないと思い、再度観直したいとまで思わせる映画でした。