「心の殻を破るほど、言葉は叫びたがっているんだ」心が叫びたがってるんだ。(2015) 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
心の殻を破るほど、言葉は叫びたがっているんだ
「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない」のスタッフによるオリジナル劇場アニメーション。
自分のお喋りが原因で家族をバラバラにしてしまい、玉子の妖精に言葉を封印されてしまった少女・順。地域交流会の出し物でミュージカルの主役をやる事になり…。
「あの花」はまだ未見だけど、本作は評判の良さから気になっていたのだが…
スゲー良かった…。
心に傷もしくは何かしらしこりを残した少年少女たちの葛藤、最初は嫌々だったが一丸となってミュージカルを成功させようとする青春、淡い恋模様…。
心の傷みと青春の切なさと爽やかな感動を織り交ぜて。
ジブリやジャパニメーションだけじゃない、繊細な物語や登場人物たちの感情を実写の作品のように伝えられる。
それが日本アニメの素晴らしい所。
言葉は人の最大の魔法。
言葉で自分の気持ちを表す。
言葉が相手を幸福にする。
と同時に、言葉は人の最大の残酷な武器。
言葉で相手を傷付ける。
たった一つの言葉が、自分も周りも不幸にする。
冒頭、順に父親が投げかけた言葉はトラウマになるほど胸をえぐられた。
野球部の先輩への後輩たちの陰口。
本番前夜、順が偶然耳にしたある二人の会話。
つい吐き出してしまった本音。
それは意図しない形で相手へ届く。
いったんすれ違ってしまったら言葉は最後。
ああ、このもどかしさ!
自分も口下手だ。
頭の中、心の中でははっきりしてるのに、それを言葉にすると上手く伝えられない時などしょっちゅうだ。
言葉って難しい。
だから言葉は大事に使いたい…。
劇中劇のミュージカルが順の心の傷や心情とリンク。
リアルな青春ストーリーにおいて登場する玉子の妖精はシュールであるが、これにも意味あり。
それらが秀逸。
言葉を失った順、無気力な拓海、夢破れた球児・大樹、優等生女子・菜月。
順は拓海に想いを寄せ、拓海と菜月は以前付き合ってた関係、野球部のエース(=大樹)とチアリーダー(=菜月)は代々付き合っているという伝統。
4人の淡い恋模様は人によっては意外なカップリングかもしれないが、個人的には非常にしっくりきたのも好感。
一度失ってしまった言葉。
一度すれ違ってしまった言葉。
その時、言葉を発しようとする不安、怖さ。
が、それらを打破し、取り戻すのも言葉なのだ。
今、言いたい事。
本当に伝えたい事。
閉じ込められた玉子の殻を破るほど、心は、言葉は、叫びたがっているんだ。
去年中に見ていたら間違いなく年間my BEST入り。
とても気に入った!
見て良かった!
「あの花」も早く見なくては!