「よかった」心が叫びたがってるんだ。(2015) 古泉智浩さんの映画レビュー(感想・評価)
よかった
主人公の失語症みたいな女の子に、面倒くさいな~と終始イライラしていた。しかしちょっとずつ心を開く様子に、ずるいなと思いながらも感動していた。ところが、舞台を目前に失踪してしまうという最低な行為をするに至って、心底嫌だなと思ったのだが、歌いながら体育館に現れたところで感動してボロ泣きしてしまった。
嫌いな登場人物に対しても、涙を流させるというエンターテイメントの剛腕ぶりを感じさせられた。
心が弱いことを言い訳にしすぎだ。それだからと言って協力してくれたクラスメートに対して無責任でいいわけがないし、人前に立つ資格もないと思う。どんな嫌なことがあっても、自分が嫌いでも、誰かを嫌いでも飲み込んでよそ行きの顔をして生きて行くのが人生で、自分だけがつらいと思うなバカと思った。私生きててつらいですと看板を掲げて生活している様が本当にイライラする。少しは意地や根性を見せてみろと思っていたら、ほんの小出しで時折維持や根性を見せられ、その度に感動させられてしまう。ヤンキーが子猫をかわいがると善人に見える理論にすっかり乗せられた。
そんなクソな主人公に対してクラスメートのみんなが優しすぎてそこがまた泣ける。野球部の彼も、あんな女苦労するに決まっているからやめろと思うのだが、頑張り屋の彼なら大丈夫かもしれない。頑張ってほしい。
しかし、幼い彼女に対して父親のあの一言はない。浮気する自分が一番悪いに決まっている。母親ももうちょっと寛大であってもよかったのではないだろうか。母親も生活苦を抱えているとはいえ、もうちょっと優しくしてあげて欲しかった。
ただ、クライマックスの2種類の曲を重ねる歌の歌詞が全く聞き取れず感動ポイントなのにもかかわらずモヤモヤした気持ちのまま終わってしまった。歌詞の字幕を入れて欲しいと強く思う。
デリケートな心の機微やデリケートなテーマを、危ういバランスで見事に表現していたと思う。このような優しく繊細な作品を成立させるのはさぞ大変だったのではないだろうか。