フォーカス : 映画評論・批評
2015年4月28日更新
2015年5月1日より丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほかにてロードショー
脇役達のキャラクターが光る、驚きと興奮がいっぱいのクライム・サスペンス
「あなたも騙される」という触れ込みの作品には、「騙されないぞ」と身構えるのが人情。そんな観客を「騙された!」と驚かせつつ、その驚きを爽快感に変えるのは難しい。だが、それを見事にやってのけるのが本作。
凄腕詐欺師ニッキーと彼をカモにするつもりで近づいた女ジェスがチームになり、恋におちる。だが、突然の別れから3年、大仕事に臨むニッキーの前に、洗練されたジェスが現れて、波瀾の予感…。と、チラシには中盤に至るまでのかなりのストーリーが書かれているのだが、それを知ったうえで観ていてもなお、驚きと興奮がいっぱい。大事なのは相手のフォーカス(注意)をそらすことという騙しの極意のもと、ニッキーがジェスに手ほどきするスリのテクニックからスーパーボウルで賑わう街でのチームプレイ、緻密に計算されたコンゲームまで、いかにして相手の心を操るかを見せるテンポもよければ、会話も軽妙。洒落てはいるけれど、サスペンス風に気取りすぎずに、レクチャーを楽しませながら、いつのまにか登場人物たちに感情移入させているあたりは、「ラブ・アゲイン」の監督&脚本コンビならではといったところ。
ひと癖ありそうなキャラクター揃いのなかでも最高なのは、アドリアン・マルティネスが演じる淡々とセクハラまがいの下ネタを連発するオタク系中年男。彼とジェスの掛け合いに笑わせながら、2人のトークに距離感の変化を感じさせるのも洒脱。それは同時に、マルティネスやウィル・スミスとのシーンをいきいきと輝かせるマーゴット・ロビーがコメディセンスも持ち合わせていることに気づかせることになる。ロビーは、キュートでセクシーなだけじゃなかったのだ。
後半、まさかのシリアスな顔を見せるロマンスや、ロドリゴ・サントロが演じる大富豪の恋敵やその秘書などなど、主張しすぎないのにどこか気になる脇役たちがあいまった物語は、まさに観客のフォーカスを操る世界。先読みすればするほど騙されるといったところだが、正直、ストーリーに巻き込まれて先読みするのも忘れがちです。
(杉谷伸子)