劇場公開日 2015年4月25日

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劇場版 境界の彼方 I'LL BE HERE 未来篇 : インタビュー

2015年4月24日更新
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石立太一が明かす監督デビュー作「境界の彼方」に込めた思いと京アニの魅力

2013年、「不愉快です」とつぶやく赤ぶちメガネの美少女、「メガネが大好きです!」と声をあげる少年が織り成す物語が、アニメファンの心をつかんだ。ヒット作を生み出し続ける京都アニメーションで、多くの作品に携わってきた石立太一の監督デビュー作「境界の彼方」だ。石立監督が、ダークファンタジーで描いたメッセージとともに、京アニ作品のヒットに隠された魅力を明かす。(取材・文/編集部)

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最凶の妖夢・境界の彼方を宿した半妖の少年・神原秋人、呪われた血の一族として、境界の彼方討伐を運命付けられた異界士の少女・栗山未来。敵対する存在として出会ったふたりは、孤独な宿命を分かち合いながら、ともに歩む世界を手にしたはずだった。

鳥居なごむ氏のライトノベルを原作に、13年にテレビアニメ化。テレビ版の総集編にあたる劇場版2部作の前編「劇場版 境界の彼方 I'LL BE HERE 過去篇」が、3月に劇場公開された。後編「劇場版 境界の彼方 I'LL BE HERE 未来篇」は、前編から1年後、記憶を失った未来と未来への思いに葛藤(かっとう)する秋人を軸に、少年少女らの新たな戦いが描かれる。

当初、テレビアニメでの完結が予定されていたが、現場スタッフの熱によって劇場版の製作が実現した。「最終回を経て、僕なりに燃え尽きましたが(笑)、『もっと言いたいこと、やりたいことがあるんじゃないか』と言われたんです。スタッフみんながテレビだけではもったいないくらい頑張っていたし、僕なりにいろいろなメッセージや気持ちを込めてつくっていたので、劇場版という違う形として、より多くの人に楽しんでもらえるものができるとみんなが考えていたんです」

10代の少年少女をメインターゲットにスタートしたが、「ふたを開けてみたら、青春ドラマよりも、愛や運命といったテーマに本線があるので、10代が見るには設定が重いなって(笑)。僕自身、今の年になって理屈ではなく自分の気持ちでそうだなって思うようになったんです」と話す。

「この作品のテーマは一言で言うと『愛』です」。未来は、秋人を救おうとすることで自らの呪われた血を受け入れた。それに応えるように、秋人は未来と向き合う。ふたりを襲う運命はどこまでも過酷だが、彼らは気付かないうちに家族や友人の温かさに包まれている。「秋人と未来の恋愛ではなくて、もう少し大きな愛です。人は生まれた時に無条件で親の愛を受け、愛されていた記憶は自分が生きていく上での支えや、自分を肯定するための大きな要素のひとつになると思うんです。愛されていた記憶がどれだけポジティブなエネルギーになるのかというメッセージを、作品に落とし込めないかと思ったことが主題なんです」

不遇な環境で育ったふたりが自分たちの手で世界を切り開く姿に、石立監督の思いが投影されている。「ネットの功罪で今はネガティブな感情が露呈しやすい時代だと思いますが、どうしてもうちょっと前向きになれないのかと思うんですよね。この作品はファンタジーですが、秋人と未来が頑張った先に何を見出し、幸せだと感じるのかというところで最終的に愛につながってほしい。乗り越えた先には必ずある種の幸せがあるということを、ぼんやり感じてもらえたらと思っています」

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後編「未来篇」は、ふたりがきずなを失った「サディスティック」な展開で始まる。常に苦境に立たされてきた未来と秋人だが、「秋人の方が受身で本当に苦労して勝ち得たきずなだったのだろうか」という思いから、「秋人の心情の機微を追いかけていく」形で物語は組み立てられた。

記憶を失った未来に対して、秋人は真実を明かさない。呪われた血を受け継いだ異界士であること。自分の命を狙っていたこと。そして、壮絶な戦いの末、思いを通わせたことさえも。「愛というテーマにつなげるため、未来の記憶を失くしました。親から受けた愛や、恋人や人生の伴侶のような大事な人と築く愛は、自分たちの子どもにつないでいきます。でも、悲しいことに愛って必ずすれ違うんですよね。親が先立ちますし、夫婦でも同時には死なない。愛はすれ違うけれど大切にすべきものではないかということにつなげたかったんです。これは、全登場人物に込めているつもりです」

石立監督は、「境界の彼方」以前に「日常」「涼宮ハルヒの憂鬱」「けいおん!」「氷菓」「中二病でも恋がしたい!」「たまこまーけっと」など、さまざまな作品で演出、絵コンテなどを手がけてきた。これまでの経験を通じて、「作品は監督のものであるのか、観客のものであるのか」という問いに対し、「お客さんのものだと思っています」という信念にたどり着いた。

「監督のものなのか、お客さんのものなのかというところは気を付けています。最初は逆でしたが、自分でつくったり、他の作品とか見ているなかで、『面白いけどダメだな』と思ったんです。テレビで放送したり、映画館まで足を運んで見てもらうのに、みんなで頑張ったものがつくった側の自己満足の世界になってしまったら、つらいなあと。作家性を感じさせずに見てもらえるものが、1番多くの人に見てもらえるものづくりだと思います。でも、何かを伝えるためには、自分の考えが作品に反映されてしまうので難しいんですよね。それに、映像作品は見る人が『面白い』『よかった』という感情を抱くもので、説教されている気分になったら興ざめだと思うんですよ。直接言ってはいなくても、見た人がそうだなと素直に受け止められるところが、映像作品のいいところだと思うので」

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京都アニメーションは、数々の人気アニメを送り出し、ビジュアルだけでない魅力的なキャラクターと物語で社会現象を巻き起こしてきた。「絵がうまい下手ではなく、つくっている人の魂がこもっている」作品たちは、国境を超え、海外でもファンを獲得している。石立監督は「全年齢対象でつくりたい」という同社の作品づくりのスタンスをあげ、「大人が見たら考えさせられ、得るものがあるというベクトルではなく、幸福感や面白かったというポジティブな感情を抱いてほしいんです。この作品は(京都アニメーションとしては)重いですが、あくまで表現であってメッセージとしてはそういった感情なんです」。それでも「表現としての可能性はもうちょっとあると思っていて、いい意味で見た人に驚いてもらいたい」と挑戦を止めることはない。

「いろいろな国の人に見てもらいたいと思っています。各地で紛争が起こっていますが、僕は人間は性善説で国籍に関係なく幸せに向かって生きたいと考えていると思うんです。言葉ではなく、そこに向かって自分たちが何をすべきなのかということや、こういった物語があるのかということだけなので、京都アニメーションの理念でつくり続けている限り、魅力はそこにあるのかなと思っています」

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