「おとぎ話の「その前」の物語」イントゥ・ザ・ウッズ デュークさんの映画レビュー(感想・評価)
おとぎ話の「その前」の物語
まず一言、私は本作品を「おとぎ話版アヴェンジャーズ」だと思って観に行きました。
つまりは偶然集ったおとぎ話の主人公たちが、知恵と勇気と各々の特技で逆境を乗り越える話かな、と。
残念ながら全くそんな話ではありませんでした。
恐らく、同じような期待を抱いた方は少なくないでしょう。
また、広告などでしきりに「おとぎ話のその後を描いた~」と謳っていますが、時系列が後なだけで、正直適切な表現ではありません。
どちらかと言えば、「その前」の物語。
この映画に出てくる赤ずきん、シンデレラetc...は、
我々が見聞きしてきた赤ずきんらなどではありません。
正しくは、『童話、「赤ずきん」の元になった人物』
『寓話として取り上げられるべき「失敗」をした人物』の物語です。
なので、彼らはそれぞれ大きな失敗をします。
彼らは非常に生々しい人間です。
品行方正などという言葉からは程遠い人たちです。
とは言え、本作品は対象年齢層が高いため、そういったキャラ付けもありかな、とは思えます。
(個人的に本作に出てくる、"下半身に忠実過ぎる王子様"というキャラは斬新だったなと思います。)
ここまではまぁ、よくある広告に騙された、の次元なので正直許せる範囲です。
しかし本作は以下の欠点を抱えています。
①冗長過ぎるミュージカル
まず、長い。
上演時間の半分は歌い、踊ります。
歌のクオリティに関しては全編通して文句無しに素晴らしい出来なのですが、いかんせん長い。
おかげで本筋が遅々として進みません。
②そしてミュージカルが噛み合わない
本作の世界観は前述した通り割とハードです。
人物もある程度利己的に動きます。
しかしそんな人たちが、ディズニーアニメ映画と変わらないテンションで歌い、踊る。
大きな危機が迫っている状況でも、歌い、踊る。
言うなれば24のジャックバウアーが単身敵地に乗り込む直前に「A Whole New World」を熱唱する、そんな世界観です。
もうどんな感覚で見ていいのやらよくわからなくなりました…
③最後に脚本が憤りを覚えるレベル
ここからは完全に個人の愚痴です。
完全なるネタバレを含みますので閲覧の際はご注意ください。
本作での最後の関門は"ジャックと豆の木"のジャックが殺害した巨人の妻。
彼女はアクシデントによって生えた巨大な豆の木を伝い、ジャックに復讐すべく地上にやってきます。
彼女は夫と同じく巨人なので、歩くだけで地上の王国では被害が出ます。
地上の主人公たちはその様子を見て
「悪い巨人を退治しよう」と言うのでした。
が、作中のどこを見ても巨人の妻に非と言える非はありませんでした。
彼女は王国を壊滅しようとしているわけではなく、終始「ジャックはどこだ」と問いかけます。
恐らくジャックを探しているだけで他の人間に危害を加えることは基本的に考えていません。
巨人に怯える主人公らに対し、悪役顔の魔女がこう囁くのです
「ジャックを差し出して許してもらおう」
まさかの正論。
それに対して、主人公らは全力で魔女をバッシング。
この時点で観客側はイライラが募りはじめます。
その後お約束通り巨人を迎え撃ち、倒すことにする一行。
登場人物の生々しい性格を見てきたこちらとしては、
自身可愛さに巨人の方を滅してしまおうという方針はある種納得がいく展開ではありました。
が、ついに巨人を迎え撃つ直前、ここで赤ずきんが口を開きます。
「巨人だって人間よ、殺していいはずないわ」と。
よくぞ言った!と叫びだしそうでした。
主人公側にも良心があったんだ!そう思った矢先、赤ずきんが二言目を発します。
「だから、巨人を許してあげましょう?」
私はこの時点でキレました。
お前、何勘違いしてんだよ、と
どんだけ上から目線なんだよ、と
今回の件の被害者は明らかに巨人側です。
ジャックが盗みに入り、あまつさえ夫の方を殺害したせいです。
それを「許してあげましょう」
もう、お前らジャックの首差し出せよ、とそんな気分でした。
さらに追い打ちをかけるのが当のジャックです。
「巨人が僕を探しているせいでお母さんが死んじゃったんだ、だから巨人に復讐するんだ!」
ちなみにジャックの母親は、巨人に遭遇した際に「息子は渡さない」と食って掛かり、
そのせいで巨人が怒るのを恐れた"人間の役人"によって殺害されています
(故意ではなく事故とはいえ)
状況はパーティ唯一の大人であるパン屋が説明しています。
巨人に殺されたのではないよ、と。
それでも怒るジャック
いや、待てよ
お前が先に殺したんだよ、と
お前は全身全霊で謝るべきなんだよ、と
私の感情にトドメを刺したのはそのあとの超絶自己弁護。
「巨人はいい人かもしれない」
「魔女は正しいことを言っているかもしれない」
「誰だって間違えるのさ!」
…いや気付いたなら正せよ!!
そして「一人で考えると間違えるんだよ、だからみんなで寄り添って考えよう!」
みたいな内容を歌いながら朗々と述べる。
巨人のすぐ近くで。
当の巨人が来たときは、自分たちで「間違いかもね」と言いつつも
平和的な交渉や対話無しに巨人を殺害。
恐らく
「人間はみんな間違える(そう、今回の巨人みたいにね!)」
という意味だったのでしょう。
もう巨人たちが本当に見ていて不憫で不憫で、
登場人物を全員一列に並べて右頬を順番に殴り倒してやりたい気分でした。
そして最後は「(主に巨人のせいで)失ったものは多かったけど
、この失敗を次の世代の子供に"物語"として残してあげましょう、
私たちと同じような失敗をさせないために…」
という旨の会話があって終了。
こうして数々のおとぎ話が生まれたのか、というのがわかるシーンです。
そのままオープニングで流れたテーマ曲が陽気に流れつつスタッフロールへ。
皮肉にも歌詞の最後は「happily ever after(めでたし めでたし)」
どこもめでたくねーよ!と突っ込まざるを得ませんでした。
【総括】
名優、メリル・ストリープ演じる魔女は一見の価値あり
歌唱力もさることながら、物語中盤で変身する彼女の演技はお見事の一言。
ちなみに日本での客寄せパンダ、ジョニー・デップは今回は端役。
演技力は相変わらずの水準だが、ほかのキャストに比べあまり歌えない(そこそこ上手くはあるが)
歌は良かったが脚本は没レベル
自宅でDVD鑑賞をする程度で良い映画
お金をかけたいならぜひサウンドトラックに
こちらは間違いなく買い