「野次馬的好奇心を刺激する面白さ」ナイトクローラー Garuさんの映画レビュー(感想・評価)
野次馬的好奇心を刺激する面白さ
しがないチンピラ犯罪者がフリーの報道カメラマンとなり、 口八丁手八丁の才能と目を見張る行動力でスクープを連発。 やがて、テレビ局の信頼を得て成功していく…。
常識から逸脱した犯罪者のメンタリティが、なぜここまで受け入れられ、社会的な成功を得られるのか。 しかも、成功の舞台は、常識社会の牙城であり、悪から市民を守るはずのテレビメディアであるのに…。 なかなかに珍しい面白さを持った刺激的作品だ。
爽やかなサクセスストーリーではない。 主人公の男がテレビ局に素材の売り込み始めた段階では、成り上がりの高揚感を共有できるが、 その思考と行動は一線を越えており、すぐに共感はなくなる。 警察無線を傍受し、スピード超過で現場へ向かい、被害者宅に不法侵入し、血まみれで死んでいる被害者を冷徹に撮影する。
この男は、犯罪者としての腐った性根をそのまま活かし、報道カメラマンとしてのアイデンティティを築こうとしているかのようだ。 しかし、男の行動には、明らかにジャーナリストの使命感とは違う、罪を犯そうとする時の犯罪者のギラギラとしたモチベーションを感じる。
逆に言うと、ファインダー越しに取材対象を見ている時のジャーナリストは、この作品の主人公と紙一重だということだ。 ギルロイ監督は、 情動にも常識感覚にも順法意識にも欠けた犯罪者と、視聴率という金儲けの指標にしがみつくテレビメディアとは、同じ次元で呼応し得るのだと言いたかったのだと思う。 どちらもまともでない者同士、類は友を呼び合うのだ。
作品の面白さは、しっかりとした構成にある。 罪を犯してスクープを連発するフリーカメラマンに対し、道義や法律よりも結果を優先するニュース番組のディレクター。 常識感覚を持つ底辺のブルーカラーと、常識感覚が欠落した高収入のホワイトカラー。 これらの対立軸の中で主人公の歪んだ個性が炙り出されると同時に、 テレビメディアの抱える矛盾と欺瞞が見事に浮かび上がる。
一方、 ストーリー展開は単純で、 破滅的にも見える主人公の直線的な行動は、結果的にすべてうまくいく。 劇的な結末も、どんでん返しもなく、犯罪者が社会の偽善と同調することに成功する姿を見せつけられるだけだ。
結局、この作品を面白いと思うのは、 「歪んだサクセスストーリーと現実の裏側」 を覗き見てみたいという、 無責任な野次馬的好奇心があるからだろう。 実は、視聴者である我々も共犯なのである。