劇場公開日 2015年2月21日

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「良き羊飼いの選択肢はないのか」アメリカン・スナイパー REXさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0良き羊飼いの選択肢はないのか

2015年4月2日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

難しい

愛国心を持つ者同士が戦えば、そこには悪も善もない。 アメリカの大義名分は「対テロ戦争」だが、過激派や原理主義者たちも、各々の掲げる正義はあるだろう。正義と正義がぶつかれば、宗教論争に似て終わりはない。永遠の平行線。

この映画は、お涙ちょうだいもなく、クリスをことさらヒーローに仕立ててもいない。 クリント・イーストウッドの主観は極力排除され、 至極客観的に作られている。 言い換えれば、事実をありのまま伝えクリスの内面を脚色していない。 それが故人に対する敬意であるように、エンドロールも無音。観客の感情を恣意的に操作していない。

よくあるフェイクのアクション映画では主人公が敵を倒すたびに爽快感を味わうが、この映画ではクリスが誰かを撃つたびに、自分が銃を構えたような緊張感が走る。目に見えない速さで飛んでくる武器が、隣の人間を肉塊に変える。虚飾のない戦闘シーンの生々しさは見ていて嫌悪感を伴った。

タヤが言う。「あなたが守りたいものはここにある」と。海の向こうで誰かを殺すたびに、国内でテロが起きる確率が増えていく。では何から守ってるのか。イラク戦争はただの自己満足ではないのか。そのことをクリスは自問自答しただろうか? それとも暗いテレビ画面に映るのは、助けたかった仲間のことだけだっただろうか。

世界大戦下の状況などと違い、国に帰れば誰も戦争を意に介さない日常。ものすごい隔絶だと思う。イラクから帰ってきたクリスが、まっすぐ帰宅できずにバーで過ごすシーンは涙を誘う。

反戦映画ととるか、愛国映画ととるかは観客に委ねられていると思う。 米国内で、自分等が愛国心の拳を振りかざすたびに、憎悪が生まれていると考える人はいるだろうか?
政治ゲームで疲弊するのは、良心を愛国心に置き換えた一般人。国を守ると信じた行為は、戦闘地の一市民を戦闘員に変えるだけ。もういい加減、神を大義名分の隠れ蓑に使うのはやめてほしい。

本当に国を守りたいなら、個人が戦争に参加しない選択をしなければ。

人間には「羊と狼と番犬の3種類がいる」と教えたクリスの父。そこに「良き羊飼い」の選択肢はないのか。

REX