劇場公開日 2015年2月21日

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アメリカン・スナイパー : 映画評論・批評

2015年2月9日更新

2015年2月21日より丸の内ピカデリーほかにてロードショー

巨匠イーストウッドがあぶり出す、現代アメリカの癒えぬ傷跡

スクリーンから伝わる戦場のざらついた風、焦げついた臭いに極限までなぶられる。目を背けたくなる決断の数々が徐々に感情を麻痺させていく−−−。前作「ジャージー・ボーイズ」の爽快な後味がどれほど懐かしく、遠い昔に思えることか。御歳84になるクリント・イーストウッドが新たに紡ぐのは、イラク戦争の過酷な現実を生きたネイビー・シールズ隊員、クリス・カイルの物語だ。

160人を射殺した凄腕の狙撃手として、味方からは「伝説」と賞賛され、敵からは「悪魔」と恐れられた彼。その知られざる人物像をイーストウッドが丹念に描き出し、また自ら映画化権を獲得したブラッドリー・クーパーが、精神的にも肉体的にも己を限界まで追い込むほどの気迫でこの役を生き抜いている。

だが、本作がクリスの活躍を讃えた英雄物語だと思ったら大間違いだ。イーストウッドはその人間の一面のみをクローズアップする手法は採らない。光を描けば影もまた克明さを増す。壮絶な戦況で命のやり取りを交わすたび、クリスの魂には楔(くさび)が打ち込まれていく。そして、愛する家族のもとにようやく帰れたかと思うと、今度は抑えていたものが吹き出し、精神的な爪痕が彼を蝕んでいく。この一連の出口の無さにも、しっかりと主眼が向けられるのだ。

興味深いのは、本作が70年代から現代までに及ぶ主人公の半生を儀式のごとくつぶさに描き出していることだ。そうすることでイラク戦争という悪夢を単なる「点」ではなく、一人の人間の生き様の中でじっくりと炙(あぶ)り出すことが可能となる。クリスが幼少期に培った「他者を守る」という意識。その信念を強く貫いたがゆえに、やがて重い犠牲を払うことになる皮肉。こうした流れにはイーストウッドが過去に描いてきた複雑な主人公たちと通底するものを感じずにいられない。

本作の結末には正直言って激しく動揺させられた。戦争の傷跡はあまりに深い。はたしてアメリカは事態とどう向き合っていくのだろうか。この映画に叙情的なシンフォニーは存在しない。無音で流れゆくエンド・クレジットは我々に、今この瞬間、自分自身の頭で思考し続けることを求めている。

牛津厚信

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