「事実の重み・本質を突きつけることで種々のことを考えさせるとても優れた戦争映画」アメリカン・スナイパー Kazu Annさんの映画レビュー(感想・評価)
事実の重み・本質を突きつけることで種々のことを考えさせるとても優れた戦争映画
クリント・イーストウッド監督による2014年製作の米国映画。
原題American Sniper、配給ワーナー・ブラザース映画
ブラッドリー・クーパー演ずる主人公クリス・カイルを、英雄扱いせずに、一人の家族を持つ米国人のイラクにおける戦争体験として淡々と描いていることが素晴らしい。1回目2回目3回目4回目と派兵が重なる中、仲間は傷つき殺され、弟も精神を病み、彼自身の心も傷ついていく。
そして戦いの原動力は、崇高な精神よりも仲間をやられた復讐心に変わっていく。そして、4回目派遣で、仲間を殺した元オリンピック出場の狙撃手を仕留めることができた。160名を射殺!しかし、見ているこちら側は、米国から遥かに遠い異国で、彼に限らず、こんなにヒトを殺すことの意義に否応なく疑問を持つ。
子供に銃口で狙いを定めているクーパーが、子供が砲弾を手放し、思わずホッとする姿に共感を覚えた。その前には、米軍と闘おうとする息子と母を共に射殺もしていた。本国に全く危害がない遠い異国で、米兵達は何と戦っているのか?大いなる疑問を突きつける強烈な映像であった。
戦場から離れても彼は精神的障害に苦しむ。同様の人達を助けることでようやく回復してきたところで、彼は戦争帰りの人間に射殺されてしまう。立派な葬儀を国家は行ってくれたが、殺した方も殺された方も、国家による要請に従って戦争に従事しての悲劇。国家というものの非情さを、今ウクライナに派遣されているソ連兵士のことを想いながら、思い知った。
狙撃対象等に脚色は多少あるが、事実の重み・本質を突きつけることで種々のことを考えさせるとても優れた映画であった。クリント・イーストウッドの戦争映画にはいつも感心させられる。
製作クリント・イーストウッド、ロバート・ローレンツ、アンドリュー・ラザー ブラッドリー・クーパー、ピーター・モーガン、製作総指揮ティム・ムーア、ジェイソン・ホール、シェロウム・キム ブルース・バーマン。
原作クリス・カイルの自伝『American Sniper: The Autobiography of the Most Lethal Sniper in U.S. Military History』、脚本ジェイソン・ホール(アメリカン・ソルジャー等)。
撮影トム・スターン、美術ジェームズ・J・ムラカミ シャリーズ・カーデナス、衣装デボラ・ホッパー、編集ジョエル・コックス ゲイリー・D・ローチ、視覚効果マイケル・オー、海軍技術顧問、ケビン・ラーチ
出演はブラッドリー・クーパー、シエナ・ミラー、ルーク・グライムス、ジェイク・マクドーマン、ケビン・ラーチ、コリー・ハードリクト、ナビド・ネガーバン、キーア・オドネル。