劇場公開日 2015年2月21日

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「メトロノームはどちらにも揺れる。」アメリカン・スナイパー さぽしゃさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0メトロノームはどちらにも揺れる。

2015年7月27日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

メトロノームはどちらにも揺れる。
揺れるように作られているんです。
正義にも悪にも、ヒーローにも悪魔にも、愛国心にも反米心にも。
揺らしたいように揺らせばいい。
自分で揺らすことに意味がある。
そして私のメトロノームは、ここで止まりました。
英語だと「An ill life an ill end」
日本語だと「因果応報」
主人公が放った弾は、最後には自分に返ってくる。
そう、まるで9.11の悲劇が起こった背景と同じ。
本作はイーストウッド監督の、痛烈なアメリカ批判だと受け取りました。

ヒーローはどこにいる?
イラクへ出兵する度に壊れていく男。
消えたテレビを凝視し爆音の幻聴に怯える男。
子供とじゃれてる犬を殴り殺そうとする男。
娘が泣いているのに構わない看護師にブチ切れる男。
後ろの車がまるで敵のように警戒する男。
ちょっとした音に過敏に反応する男。
血圧は常に異常値。精神の変調が、肉体にも影響を及ぼす男。
本作にはヒーローは存在しない。
米国の為に仲間を守る為に大量に人を殺した男が、ある感情が芽生えた瞬間に壊れていく物語だ。
そんな男には、皮肉な最後が待っています。

イラクのまだ幼い子供が、手榴弾を掴んで戦車に突進して来る。それをカイルが狙撃する。
傍にいた母親は死んだ子供を抱こうともせず、落ちた手榴弾を掴んで戦車に迫って来る。彼女も、カイルの弾に倒れる。倒さなければ、仲間が死ぬ。子供か、仲間か。死の選択を、瞬時に決めなければいけない。
そんなカイルにも、同じ年齢くらいの子供、妻がいる。
イラクの狙撃兵の傍にも、小さな子供を抱いた女性がいる。
説明はないけど、奧さんだと分かる。どちらにも、正義があり、悪があるのではないか。
メトロノームは揺れ続ける。
本作は今までのアメリカ映画にありがちな、太陽に向かって立つ勝者、そしてその影になる敗者の戦争映画ではない。双方に光を当てた、戦争の二面性を描いた秀作です。

話題のエンドロール。無音です。
まるでカイルが凝視していた、消えたテレビのようです。
彼には爆音の幻聴がしていましたが、みなさんには何が聞こえましたか?
特殊な仕事をしていた祖父が、生前こんなことを言っていました。
「戦争は、外交の失敗で起こる」
失敗したのは、カイルでもイラク兵でもありません。誰なんでしょうね?
私にはこの無音のエンドロールから、クリント・イーストウッドの言いたいけど言えない、アメリカ(ある人?)に対する悪態が聞こえて来るようでした(笑)

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夏斗