「メトロノームはどちらにも揺れる。」アメリカン・スナイパー さぽしゃさんの映画レビュー(感想・評価)
メトロノームはどちらにも揺れる。
メトロノームはどちらにも揺れる。
揺れるように作られているんです。
正義にも悪にも、ヒーローにも悪魔にも、愛国心にも反米心にも。
揺らしたいように揺らせばいい。
自分で揺らすことに意味がある。
そして私のメトロノームは、ここで止まりました。
英語だと「An ill life an ill end」
日本語だと「因果応報」
主人公が放った弾は、最後には自分に返ってくる。
そう、まるで9.11の悲劇が起こった背景と同じ。
本作はイーストウッド監督の、痛烈なアメリカ批判だと受け取りました。
ヒーローはどこにいる?
イラクへ出兵する度に壊れていく男。
消えたテレビを凝視し爆音の幻聴に怯える男。
子供とじゃれてる犬を殴り殺そうとする男。
娘が泣いているのに構わない看護師にブチ切れる男。
後ろの車がまるで敵のように警戒する男。
ちょっとした音に過敏に反応する男。
血圧は常に異常値。精神の変調が、肉体にも影響を及ぼす男。
本作にはヒーローは存在しない。
米国の為に仲間を守る為に大量に人を殺した男が、ある感情が芽生えた瞬間に壊れていく物語だ。
そんな男には、皮肉な最後が待っています。
イラクのまだ幼い子供が、手榴弾を掴んで戦車に突進して来る。それをカイルが狙撃する。
傍にいた母親は死んだ子供を抱こうともせず、落ちた手榴弾を掴んで戦車に迫って来る。彼女も、カイルの弾に倒れる。倒さなければ、仲間が死ぬ。子供か、仲間か。死の選択を、瞬時に決めなければいけない。
そんなカイルにも、同じ年齢くらいの子供、妻がいる。
イラクの狙撃兵の傍にも、小さな子供を抱いた女性がいる。
説明はないけど、奧さんだと分かる。どちらにも、正義があり、悪があるのではないか。
メトロノームは揺れ続ける。
本作は今までのアメリカ映画にありがちな、太陽に向かって立つ勝者、そしてその影になる敗者の戦争映画ではない。双方に光を当てた、戦争の二面性を描いた秀作です。
話題のエンドロール。無音です。
まるでカイルが凝視していた、消えたテレビのようです。
彼には爆音の幻聴がしていましたが、みなさんには何が聞こえましたか?
特殊な仕事をしていた祖父が、生前こんなことを言っていました。
「戦争は、外交の失敗で起こる」
失敗したのは、カイルでもイラク兵でもありません。誰なんでしょうね?
私にはこの無音のエンドロールから、クリント・イーストウッドの言いたいけど言えない、アメリカ(ある人?)に対する悪態が聞こえて来るようでした(笑)