「登山の詳細描写や風景が見所も、演出面は淡白。」エベレスト 3D 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
登山の詳細描写や風景が見所も、演出面は淡白。
僕はこの映画、エベレスト登頂まではスルッと成功して(登山家の皆さん馬鹿言ってすみません)、
その後で未曾有のディザスター(災害)に見舞われてサバイバルを図る、
みたいな流れを想像してたが、だいぶ違った。
事態が最悪になるのはラスト3,40分くらいになってからなので、
一般的なディザスター映画やサバイバル映画のようなエンタメ性は薄味。
とはいえ、
山登りに関する知識をバラエティ番組(日曜夜のアレね)でかじった程度
にしか持ち合わせてない自分には、本作は色々と新鮮な描写が多かった。
ここまで丁寧に登山までの過程や内情を描いた映画って、僕の知る限りは無い。
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ネパールの駅に降り立ってキャンプ地まで移動する所は
実際に異国を訪れたような感覚を味わえてワクワクするし、
高山病に低体温症に、最高度の登山では人体が正常に機能しなくなっていくという描写も詳細。
他チームと日程調整(≒意地の張り合い)したり協力し合う様子も「へぇ~」って感じで、
高レベルの登山となると単に山登りが上手いだけじゃダメなのね、と興味深く鑑賞。
それに「エベレストは獣」という言葉の通り、嵐に見舞われていようがいまいが、
あの山に登ること自体がそもそも尋常じゃないのだと、登頂までの行程を見れば分かる。
嵐に直撃されてからはもう最悪で、些細な行き違いや相手を想っての行動が
裏目裏目に出て、何もかもが芋づる式に瓦解していく様が恐ろしい。
一般的なディザスター映画のように主人公らがディザスターに見舞われるんじゃなく、
鎮座する8848mのディザスターの中に主人公達が自ら突っ込んでいってる感じ。
資産家という訳でもない人々が、
汗水垂らして稼いだ600万円もの大金を注ぎ込み、
愛する家族とも離ればなれになることを覚悟の上で、
環境に馴れる為に数十日間もキャンプときつい訓練を重ね、
いざ登頂を開始しても、成功どころか生きて帰れる保証もない。
どうしてそこまでして彼らはあの山へ登るのか?
「子どもに不可能なことはないと伝えたい」
「あんなに美しい山に登れるのに、登らないのは罪だ」
といった言葉を聞いてもなお理解し難いが、
壮麗なエベレストの姿や、そこから臨む美しい光景をこうして映像で見せられると、
彼らの気持ちのほんのひと欠片くらいは共感できるような気もしてくる。
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とはいえ、それ以上の面白さはあまり感じられなかったのも率直な感想。
実話が基の映画は、事実から逸脱し過ぎると非難を浴びるし
忠実過ぎると面白みに欠けるしで匙加減が難しいものなのだろう。
で、本作はどちらかといえば後者の方になると思う。
一般的なサバイバル映画なら崖から崖へジャンプしたりロープで宙ぶらりんになったりだろうし、
主人公が S・スタローンなら雪山に半袖で氷下の湖に潜ったって死なないが(死ぬよ)、
この映画の場合、終盤で嵐に見舞われてからはもう為す術もない。
主人公は頂上から殆ど移動もできずに死んでしまうし、
他メンバーも途中で力尽き、雪に埋もれたまま静かに死んでゆく。
低体温症で動ける筈もないのでこれがリアルな姿には違いないが、画ヅラとしてはやはり地味。
それと、映像面。
「いやネパールの街とか雪山の風景とか良かったじゃんつうかお前もそう書いてんじゃん健忘症ですか」
と言われそうだが、僕は予告編でハードルを上げ過ぎていたんだと思う。
だって、題材としては真新しいとはいえないエベレスト山をわざわざタイトルに持ってくる位だから、
それだけ自信満々な、今までの山岳映画を凌駕するような臨場感を期待しちゃう訳ですよ。
で、今回はIMAX3Dで鑑賞したのだが、
世界最高峰からの目眩を覚えるほどの高さや奥行きをイマイチ感じられなかったし、
期待したほどの臨場感そして凍えるような寒さが伝わらなかったかな。
寒そうには見えるし実際に撮影も激寒だったとは思うが、観てるだけで芯まで凍えるような
映像(『シャイニング』とか『北のカナリアたち』とか)の域にまでは達していない気がする。
あとの頼みの綱はドラマ面だが、
人間ドラマについてはけっこう時間を割いている筈なのに、あまり心に響いてこない。
なぜかと聞かれると説明難しいのだが、うーむ、なんだろう。
イマイチ「愛する者の為に生き残る!」という執着が足りない気がするというか。
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という訳で、
映像や細かな描写で飽きることなく観られたのだが、
淡々とした鑑賞に終止してしまったかなあ。
3.0~3.5で迷ったが、まあまあの3.0判定で。
<2015.11.07鑑賞>