起終点駅 ターミナルのレビュー・感想・評価
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尾野真千子が良かった
判事だった頃の苦い経験を引きずり最北の釧路にひっそり暮らす55歳の弁護士が孤独な25歳の女の子と出会い再生していく物語。
佐藤浩市の生きてさえいればの言葉が残りました。
展開はゆっくりですがなかなか良い映画でした。
息子に会いに行くことを決めて電車に乗る佐藤浩市の表情も流石でした。
釧路よろしく
冒頭からセリフ少なめで、佐藤浩市の表情から読み取れと言わんばかりに。つくづくいい役者さんだなと。
本田翼もここまで影のある難しい役どころを演じるとは見直した。
男は、誰にも言えないことの1つや2つを墓場まで持っていくってセリフが染みた。
ここからは元地元民目線で…
ザンギやイクラの醤油漬けなど料理の描写は作品に違和感なく溶け込んでおり良かった。
釧路の街並みが映るたびに、「ここはどこだ?」と周りが気になり過ぎてしまったのは、我ながら地元だけに失敗してしまった。
それだけに、佐藤浩市が和商市場から幣舞橋通って、益浦まで歩くなんて歩きすぎ!とか思ったけど(笑)
でも地元補正抜きにしても、ストーリーとしては、重すぎず、露骨なシーンも少なく、心理描写に没頭できる点からも、充分オススメできるので、多くの人に観てもらって、釧路をより知ってほしいと思う。(^^)/
せりふがしゃべり過ぎず、言葉が胸にすんなり入ってきます
直木賞作家の桜木紫乃さんの小説を映画化したのが本作。
北海道釧路市を舞台に、過去にとらわれる初老の男が一人の女性との出会いによって再生していくさまをしみじみと描き出されました。人生の再生を描いた大人の人間ドラマでした。
昭和63年(1988年)、雪の旭川。単身赴任中の裁判官・鷲田完治(佐藤浩市)は、学生時代の恋人・結城冴子(尾野真千子さん)の裁判に立ち会い、その後、冴子のスナックに通うようになります。冴子と深い仲になった鷲田は妻子を捨て、どこか片田舎で弁護士として独立し、冴子と暮らす決心をします。
しかし、重荷になりたくない彼女は、鷲田の目の前で駅のホームから線路に飛び込み自殺するのです。ここで初めてタイトル。長い序章は、昭和のメロドラマのような悲恋物語でした。
25年後の平成26年、釧路。自分への十字架を背負った鷲田は、妻子と別れ、国選弁護人しか引き受けない弁護士として、ひっそりと暮らしていました。
ある時、彼が弁護を担当した椎名敦子(本田翼)という女性が自宅を訪ねてくる。ふとしたことから鷲田は敦子に料理を振る舞うようになる。
さらに、何年も会っていなかった息子から大切な手紙が届いて……という展開。
冒頭の1988年は平成となる前年。ぎりぎり昭和という時代設定がうまい。恋人の死で時間を止めてしまった鷲田が、昭和から平成へ、時代に乗り移れなかった男に思えてきました。同じように、乗り移れない部分を抱えた人々は少なくないでしょう。好きな監督のひとりである篠原哲雄監督は、北海道らしい風景や料理を交えつつ、そんな男を愛情を込めて描いたのでした。
特にセリフを抑えた序盤に胸をつかまれました。その情感は、篠原監督ならではのものです。ほのかにともった男女の生の炎が、白い雪の世界に覆い尽くされ、旅立つ2人に思いを寄せたのでした。
ただ抑制しすぎて、なんで冴子は愛する人の目の前で、自殺を選んだのか、そしてそのことでその後の25年間の人生を、まるで罪人のように北海道の地方都市へと自分を監禁してしまった鷲田の贖罪の気持ちは説明不足に感じました。
第2幕が映すのは鷲田の淡々とした生活と敦子の孤独。当初のトーンは暗いままでしたが、敦子の登場によって、孤独な鷲田の暮らしに違ったリズムが加わえていくのです。敦子の存在は、鷲田の胸に過去の思い出をよぎらせざるを得ませんでした。敦子のペースにはまりながら、止まっていた時間が動き出していきました。つらいはずの過去は、気づけば懐かしい痛みに変わっていったのです。
2人のやりとりはまるでラブコメディーを思わせる部分もありました。初老の男が若い女性にドギマギする表情が面白い!目が死んで見えた敦子も、鷲田が作るザンギをおいしそうに頬張ばるなかで、次第に表情を輝かせるのです。鷲田に心を開いた後の敦子は、あっけらかんと語ってなかなかユーモラスでした。
2人の間にあるのは恋愛感情か、ただの親愛の情か。曖昧なまま関係が深まっていきます。その中で2人は過去を清算していくのでした。
ただ敦子が病で一晩看病することもあった鷲田だけに、曖昧なままふたりの関係にもう少し進展があれば、よかったのだけどとというのは、余計でしょうか?
とにかく佐藤さんの芝居に酔わされました。半白髪の佐藤浩市の枯れきっていない男の色気が、よくも悪くも映画を支配していたのです。
主人公は自分を責めて、人との関係を絶って生きてきた初老の男。ヨレヨレのスウェットを着て、古い平屋の家に住む姿は、男がこの地に懺悔のつもりで住んだ25年の歳月を感じさせてくれました。
地味な生活ながらも、男の一人暮らしをそこそこ楽しんでいる風情がほほえましかったです。
まるで是枝監督作品のように、年季の入った台所で手際よく料理を作るのシーンが、たくさん登場します。ザンギ以外にもイクラの醤油漬けや炒め物などどれもが美味しそう(^。^)新聞の料理記事の切り抜きを欠かさない鷲田は、なかなかの料理マニアでした。ザンギを作る過程も紹介されているので、自分でも作ってみたくなりました。そのうち鷲田と同じようにも市場で鶏肉を買うのが日課になるかもしれませんね。
前半は男の過去、後半は女の過去が明らかにされていく構成が絶妙。せりふがしゃべり過ぎず、言葉が胸にすんなり入ってくる篠原監督の佳作です。何度見ても、風景の中に情感を込めるのがうまい監督さんですね。繰り返し出てくる市場の雑踏、作品を象徴する釧路駅……すべてが心にしみ入ってくることでしょう。
1人の役者でもってます。
止まった時間が動き出す…
料理上手なおじ様
結城冴子が自殺した理由が解せない
TOHOシネマズ川崎で2015/11/13に鑑賞。
佐藤浩市の演技も本田翼の演技もとても良かったのですが、尾野真千子演じる結城冴子が自殺した理由が解りません。ここが理解できないと話の骨格である鷲田寛治(佐藤浩市)が世捨て人のように釧路で暮らす理由もぼやけてしまう。寛治は冴子の気持ちを理解できていなかったかもしれない。しかしですよ、本人の目の前であんな凄惨な自殺の仕方をするなんてどれほどひどい仕打ちですか?それほどのことを寛治は冴子にしましたか?冴子は寛治が司法試験に合格した時も一緒に喜びを分かち合うことなく、万年筆一本残して消えました。そして十年ほど経って再開し、妻子ある寛治と簡単に不倫関係になり、寛治が家庭を捨て自分を選ぶ覚悟を決めると目の前で電車による轢死というとんでもない方法の自殺。これほどの仕打ちありますか?結城冴子ははっきり言ってメンヘラですよね?こんな自殺をする人が寛治に「たたかえ、寛治」などと発破をかけていたんですよ。また彼女は生前、「長生きして人に負担をかけるなら早く死んだほうが幸せ」というようなことも言っていました。でもこの自殺がどれほど寛治に負担をかけるか想像できなかったんでしょうか?
そしてその冴子に対して過剰に責任を感じ、家族を捨て(ここで罪をまた増やしている)彼女が自殺した地で地味に暮らすという十字架を背負う選択をします、うん?映画を鑑賞している間、この疑問がもやもやしていまいち話に入り込めませんでした。
他の人のレビューもいくつか読んだのですが、この辺に言及している人はいないようでした。私の理解力が足りないのでしょうか?わかる方いらしたら、よろしければコメントでご教授おねがいします。
本田翼の演技がとても良かった。初めの暗い目つきの影のある演技、寛治と食事を一緒にしたあたりからの打ち解けてきて、少し厚かましいくらいの現代っ子っぽい演技。最近の若い子の演技、侮れない。
だめだ、ぜったいにかえってくるな
味が有る~
このさき当分、イクラを見ただけで泣けてしまうかもしれない
佐藤浩市が、自らに刑を与えた人生を生きる独居の初老を好演。
もちろん本人の演技力によるところはおおきいのだろうけど、歩き方や表情だけでなく、住まいや服装や車とかで、いやあここまで佐藤浩市をしょぼくれさせてくれるのか!という驚きはあった。
本田翼も、役にあっていた。化粧っ気のない素直な笑顔を持ちながら、影を潜ませた瞳をも持ち合わせている。だから彼女が伏し目がちな表情をしながら地味なたたずまいを見せるだけで、ああ、この子の生い立ちはちょっとなにかあったな、という空気を作れる。逆を言えば、明るく見せても、どこか痛々しく見えてしまうのが難点なのだろうが。
映画はとにかく地味だ。
CG(雪の演出)のせいでかえって冷めてしまうところはあるが、総じて時間の流れが、物語の暗さとあっていた。
あるときから、十字架を我が身に背負い込んだ一生を自分に科したカンジの心が、鷲田敦子が現れてからゆっくりとゆっくりと氷解していくのが、ここちよく悲しく、心地よく切なかった。
息子役は、声は電話だけだった。しかし、職場で働く姿(たぶん役者の誠実そうな容姿に影響されているところはおおきいが)を画面で見ているだけで、涙が流れてきてしまった。こいつが、山を趣味とし、「A定食」を楽しみにしている奴か、と思うだけで泣けた。
母親役は出てこないが、手紙の文面、字で、厳しくも理性のある人柄がうかがえた。そんな人に育てられた息子なのかと思わせられた。
もし、捨ててもいいと思えるような家庭だったら、カンジはあそこまで自分に刑を科さなかったかっただろう。
行き違いもありながら、ぎりぎりのタイミングで息子の結婚式を知ったカンジが、あえて東京まで電車で向かう。釧路は、かつて逃げ込んだ行きつく果ての終着点で、いまはここからまた始める始発駅。
たぶん、飛行機で行ってしまっては急激な気持ちの整理ができないのだ。まるで、凍えた身体をゆっくりと温めるかのような、そんなカンジの表情だった。
ただ、しっかり回収したフラグもあれば、あれはなんだった?的なものあった。
「同じ日の命日」と兄夫婦の不在は、どう読むのか?
例えば、心中?、事故?、それを苦にした失踪?、いろいろと憶測が生まれる。ただ、考えようによっては、その憶測をも含めて敦子の生い立ちの背景を形成している小道具なのだと考えれば、そこの回収は不要なのかもしれない。
ほかに、中村獅童との関係もそうだ。ビジネスヤクザなのはわかるが、なぜそこまで執拗に顧問就任をねだるのか?、なぜ「闘え、鷲田完治!」というセリフを知っているのか?、こちらもいろいろな憶測がめぐる。
しかし、そういう憶測は、「立てっ放しで回収しないフラグ」なのではなく、「観る側が埋める余白」なのだと思えば、この映画の味わいは格段に深まると思えた。
人を人生につなぎとめる食
テアトル新宿での「ディアーディアー」最終上映が始まるまでの時間潰しに選んだのだが、この東映作品が予想外に好かった。
佐藤浩市演じる主人公の男の、人生に見切りをつけた感じは、仕事を続け、家庭を持ったことのある男性なら一度は経験するのではないか。引責、諦め、どのように表現しようともそれは人生から逃げていることにしかならない。
その男が、国選弁護人として弁護を担当した若い女性の、全てを失ってからの人生への前向きな姿勢を目の当たりにして、自分の人生と向き合うことに戻っていく。
長いプロローグを当代きっての売れっ子である尾野真知子が引っ張り、その後を受ける形となる若い本田翼の演技が良かった。初めて見た女優だが、暗いまなざしと、佐藤の作ったザンギを美味そうに食べるときの生き生きとした表情の対比が、じめじめとなりがちなスクリーンをカラッとさせている。
佐藤と本田は何度か食卓を挟む。本田が佐藤の料理を褒めたときの「作っているときは何も考えずに済むから。」という佐藤の言葉に哀感がこもる。誰かのために料理するのではなく、自分一人のための料理に没頭するとは、孤独極まりない。
だが、その孤独な食の探求こそが、本作のテーマである人生への復帰には欠かせない。人はどれだけ希望を失っても、毎日の食への興味は尽きないのだ。ささやかな食卓にも、ひと手間を惜しまずにより美味しいものを作ろうとする。
いや、希望を失ったり、悲しみや罪の意識に押しつぶされているからこそ、最後に残るのは食べることへの欲求なのだ。これを失わない限りは、いつの日かまた自分の人生と向き合える日が来る。
食こそが、人を人生につなぎとめるものであると思った。
この日の夕食はから揚げにしたことは言うまでもない。
佐藤浩市の力だけで持っている映画
男たちよ、逃げるな、戦え
何らかの罪咎の意識にあって逃げてきた男が、もういちど、やり直そうと決意する物語。
それほど、珍しい話でもない。
とすると、この映画、どのように観客の興味を引きずっていくかが見所。
若い女に絆(ほだ)されて・・・
<あっ、ほだす、って絆(きずな)って字なんですね>
というだけではつまらないし、そう簡単に絆される男には共感しない。
この映画、同年代(といっても少々歳下なんですが)の男性にとっては、かなり居心地が悪い。
かつての恋人が目の前で自殺した後、その場から逃げてしまう男に、観客としてはどう対処していいのか困惑してしまった。
そう、絵空ごとなら、この恋人の近くで嘆き悲しむとか、そんなことが考えられ、それならば却って感情移入(というか、俺もこうなりたいなぁと無意識で思う)わけだけれど、逃げて、それもホームの階段を五・六段あがったところで転こんでしまうのだから、このような無様な男(自分に近しい男)に対して、どのように感ずればいいのか。
それも、この出来事は昭和から平成に変わるときのこと。
巷では「24時間、戦えますか」なるCMも喧(かまびす)しかったころのこと。
そんなぁ、24時間なんて戦えないよ・・・
と判ったのは、後の事。
このときの、イケイケドンドンをいいことに、男たちは知らず知らずに逃げていた。
そう、思う。
そして、この映画のキーワードは「戦え、鷲田完治」。
つまり、逃げるな、男。
カッコいい見てくれの佐藤浩市が演じているから様になるが、基本的には「逃げている男」の映画。
逃げるな、男。
結構、重く圧し掛かってきましたよ。
でも、映画はちょっとだけ猶予を与えてくれる。
最後、主人公は釧路から東京に向かうのだけれど、それを鉄道で行こうとする。
その時間は長い。
主人公は決意してその鉄路の上にあるけれど、観客(の男ども)はまだ列車に乗らない。
さて、乗る決意はあるのかどうか。
猶予は与えられたようだ。
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