「人を人生につなぎとめる食」起終点駅 ターミナル よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
人を人生につなぎとめる食
テアトル新宿での「ディアーディアー」最終上映が始まるまでの時間潰しに選んだのだが、この東映作品が予想外に好かった。
佐藤浩市演じる主人公の男の、人生に見切りをつけた感じは、仕事を続け、家庭を持ったことのある男性なら一度は経験するのではないか。引責、諦め、どのように表現しようともそれは人生から逃げていることにしかならない。
その男が、国選弁護人として弁護を担当した若い女性の、全てを失ってからの人生への前向きな姿勢を目の当たりにして、自分の人生と向き合うことに戻っていく。
長いプロローグを当代きっての売れっ子である尾野真知子が引っ張り、その後を受ける形となる若い本田翼の演技が良かった。初めて見た女優だが、暗いまなざしと、佐藤の作ったザンギを美味そうに食べるときの生き生きとした表情の対比が、じめじめとなりがちなスクリーンをカラッとさせている。
佐藤と本田は何度か食卓を挟む。本田が佐藤の料理を褒めたときの「作っているときは何も考えずに済むから。」という佐藤の言葉に哀感がこもる。誰かのために料理するのではなく、自分一人のための料理に没頭するとは、孤独極まりない。
だが、その孤独な食の探求こそが、本作のテーマである人生への復帰には欠かせない。人はどれだけ希望を失っても、毎日の食への興味は尽きないのだ。ささやかな食卓にも、ひと手間を惜しまずにより美味しいものを作ろうとする。
いや、希望を失ったり、悲しみや罪の意識に押しつぶされているからこそ、最後に残るのは食べることへの欲求なのだ。これを失わない限りは、いつの日かまた自分の人生と向き合える日が来る。
食こそが、人を人生につなぎとめるものであると思った。
この日の夕食はから揚げにしたことは言うまでもない。