サンバ : インタビュー
「最強のふたり」オマール・シー×O・ナカシュ監督による笑顔あふれる最新作
フランス映画で「アメリ」以来の大ヒットを記録した「最強のふたり」のオリビエ・ナカシュ監督とエリック・トレダノ監督、主演のオマール・シーによる最新作「サンバ」が公開する。パリに住むアフリカ系移民の青年が、ポジティブな明るさで逆境を乗り越えていく物語だ。共演には、仏アート映画界を代表する女優のシャルロット・ゲンズブール。「作家主義のゲンズブールと大衆映画のシーが組んだことで、ミラクルな化学反応が起きた」と自信を見せるナカシュ監督とシーが来日し、撮影を振り返った。(取材・文・写真/編集部)
日本でも大ヒットした「最強のふたり」は、2011年の東京国際映画祭で最高賞の東京サクラグランプリ、最優秀男優賞を獲得。両監督の授賞式出席はかなわなかったが、「『最強のふたり』がグランプリを受賞した日が、フランスの公開初日だったので、これは何か起きるかもしれないという兆しを感じました」とナカシュ監督は振り返り、シーも「僕の俳優人生で初めての賞だったんだ」と感慨深げに日本とのつながりを語る。
最新作は、「最強のふたり」以前から両監督が温めていたテーマで、移民救済活動経験を基に書かれたデルフィーヌ・クーランによる小説が原作だ。シーは、皿洗いから料理人に昇格したにもかかわらず、国外退去命令を受けた移民の青年サンバ、ゲンズブールは、燃え尽き症候群となり休職中のキャリアウーマンのアリスという役どころ。前作と同じく立場が間逆なふたりが物語の中心となり、“仕事”という社会的な成功に左右されない幸せを見出していく様を描く。
「いちばん大きなことは、何事にも理由が必ずある、ってことね。将来何が起きるかわからないけど、自分にピッ「最強のふたり」のヒットで、世界各国のプロモーションに飛び回ったナカシュ監督とシーも燃え尽き症候群に似た経験をしたという。「バーンアウトではありませんが、我々は忙しく、めまぐるしい状態でした。しかし世界各国に作品を届けられることは喜びで、苦痛ではありません。ただ、我々はパスポートさえあれば5分で国境を越えられるのに、何年もかかって国から国へ渡り歩く人たちの事を考えたのです。そういった経験もあり、『サンバ』ができたのです」(ナカシュ監督)
シーは、逆境を笑顔で乗り越えるサンバというキャラクターに大きな共感を抱いた。「社会に存在しているようで陰に隠れている、そういう存在に光を当てる事に共感した。そして、今までのフランス映画にない、不法移民をヒーローにするという映画作りにも共感し、感性を揺すぶられたんだ」と意欲的に役作りに臨んだ。
ナカシュ監督の作品に対するポリシーは「楽しい映画を作ることが大前提で、その中で社会問題などを扱いながら、ユーモアを交えて軽やかさを与えること」。常に登場人物にはリアルさを求め、シーの持つ魅力を最大限にサンバ役に反映させた。「オマールは本当にエネルギッシュで、独自のユーモアや面白さはもちろん、サンバ役ではこれまで見せていなかったロマンチックな部分や繊細な部分を見せています。それらの資質がすべて彼に備わっていたので、我々はそれを引き出したのです」
シーはシャルロットとの共演が、笑顔の裏にあるサンバの繊細な感情を引き出すことに成功したと話す。「僕にとってハイレベルな共演者で、彼女と仕事ができるのは夢のような出来事。私の繊細な部分をシャルロットがうまく引き出してくれたような気がした。彼女自身もセンシティブな女性だから、不器用な部分やもろさが彼女と演じていると自然に出てきたんじゃないかな」と振り返る。
前作のヒットで国際的な評価が高まったシーは「X-MEN:フューチャー&パスト」を皮切りに、ハリウッド映画にも進出した。「僕自身すごく驚いたけど、ハリウッドではフランス語を話さないんだよ(笑)」と冗談を飛ばしながら、「映画の現場はどこの国籍かということはあまり関係がなくて、どれくらいのお金をかけたかという違いの方が大きいんだよ。『X-MEN:フューチャー&パスト』はFOXでもかなりのバジェットを使った作品で、スタッフの数も半端じゃない。一方、フランス映画は僕にとって、メゾン(家)のようなもの。そしてエリックとオリビエとの仕事は“部屋”のようだといえるね」と気心の知れた両監督との再タッグ作の公開を喜んだ。