「娯楽映画の良さがいっぱい詰まっている」ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション DOGLOVER AKIKOさんの映画レビュー(感想・評価)
娯楽映画の良さがいっぱい詰まっている
ミッションインポッシブル シリーズの第5作目。主役は勿論トム クルーズ、監督はクリストファー マッカリー。第4作目の「ミッションインポッシブル ゴーストプロトコール」(2011年)の続編になる。
IMFエージェントは、トム クルーズ、ジェレミー レナー、サイモン ペグ、ヴィング レイムスが、そろって出演している。ジェレミーは2回目、サイモン ペグは3回目、アフリカンアメリカンのヴィングは、何と初回から出ていて5回目のトムとの共演になる。今回新しく、CIA長官に、アレック ボールドウィンが適用されていて、この人が出てくると映画全体が和らいで優しい空気が流れてくるから不思議。
IMFとは、インポッシブル ミッション フォースの略で、間違ってもインターナショナル モニタリー ファンドのIMFではないから誤解しないで。後者の方は、ギリシャの経済をむちゃくちゃにし、アフリカをはじめ多くの台所の苦しい国にバシャバシャお金を貸しては、サラ銀並みに取り立てて、弱小国を潰してきた犯罪的なファンドだ。トム クルーズの方のIMFは、アメリカCIAの中に属する組織で、不可能を可能にしてしまう、選りすぐりのスパイを集めている。
副題のローグネイションとは、今回のIMFの敵、ローグつまり無法者、ならず者悪漢集団を言う。各国のスパイ、エージェントたちが様々な事件に巻き込まれて命を失ってきた。しかし彼らは実際には死んでいなくて、姿を隠して秘密裏に新組織を作って巨大な資金をバックに影の世界制覇を目論んでいた。
多量の神経ガスが盗まれた。IMFのイーサン ハント(トム クルーズ)は、国際組織が動いているに違いないと見て、神経ガスを満載したエアバスに飛び移り、組織の全体像を掴もうとするが、逆に敵に捕まってしまう。危機一髪のところで謎の女性に救われて、IMFの連絡を取るが、実績を出せないでいる業績不振を上院委員会で追及されたCIAは、IMF存続を認めない方針を決定した。CIA長官は、ウィリアム ブラント(ジェレミー レナー)にIMF廃止を伝え、ありもしない秘密組織を追って、帰還命令に応じないイーサン ハントをCIAの敵をみなす、という厳しい決定を言い渡す。
ハントは姿を隠した。6か月が経った。ある日、元IMFのベンジャー ダンの処にオペラの招待券が送られてくる。コンピューターおたくでオペラ狂いのダンは、一も二もなくウィーンに飛ぶ。題目は「トランドット」。ところはウィーン国立オペラ劇場。ベンジャーの到着を待ってイーサン ハントは、会場でローグネイションが、何をしようと企んでいるのかを調べようとする。舞台裏に、以前ハントを捕えて拷問をしたテロリストたちが現れ、ついでにハントの命を救った謎の美女も現れる。彼らの銃の照準は、オーストリア財務大臣だった。ハントとベンジャーは、暗殺者から財務大臣の命を守るが、オペラから帰途に就いた車が爆発して財務大臣夫婦を死なせてしまう。
元IMFのルーサー ステイケルとウィリアム ブラントは、窮地に陥ったイーサ ハントとベンジャー ダンに合流するためにモロッコに向かう。モロッコの水力発電の水の底にローグネーションの秘密組織の全容データが隠してある。ハントは謎の女性がイギリスのスパイMI6に違いないと判断して、彼女の力を借りてデータを盗み出す。しかしこのデータは、イギリス首相の目の網膜と指紋がなければ開けられない。ハントは、首相を誘拐する。そして首相の口から、ローグネーションはもともとMI6の一部だったが、余りに危険なことをするので解散させた組織だったことがわかる。一方、ベンジャーが敵に誘拐され、なぞの女性も行方不明だ。ハントは二人を救い出すために、敵中に一人向かっていく。果たして敵、ローグネイションを倒すことができるのだろうか。というお話。
撮影は、ウィーン、モロッコ、カサブランカ、ロンドンとめまぐるしく移動する。
007ジェームス ボンドシリーズの最後の作品では イタリア本場のスカラ座でオペラ「トスカ」を見せてくれた。オペラ会場でタキシードに身を包んだダニエル クレイグが、思わずため息が出るほど良い男だったけど、アクション映画にオペラというのが好評だったからかどうか知らないけど、この映画では、プッチーニの「トランドット」を見せる。トランドット姫を、ジュリアード音楽大学卒のアメリカ オリヴオという美人歌手に歌わせている。オペラ上演中に、舞台の真上でIMFとMI6とローグネイションとが争いあって格闘するのが、ハラハラし通しで、実に面白かった。
オペラでは、冷酷非道な王様は各地で侵略し領土を拡張している。王様にはわがままで氷のように冷たい心を持ったプリンセス トランドットがいる。そんなプリンセスに、こともあろうに侵略されて城を追われたもとプリンスが一目惚れしてしまう。
戦に負けて乞食同様になったもと王様を介抱する従者の素晴らしいソプラノを聞きながら、着々と舞台裏に殺人者たちが到着して暗殺の準備をしている。また、恋に陥って、眠ってなどいられないと、切ない胸の内を歌い上げるテノールを聞きながら、女がフルートと思わせて会場に持ち込んだ銃を組み立てて、照準を合わせる。
プリンスに愛されて本当の愛の心に目覚めたトランドットが、わたしの恋人の名前はLOVEと、美しいソプラノを響かせてくれるオペラのクライマックスが、ハントとテロリストとの取っ組み合いのクライマックスに重なっていてスリル満点。舞台の真上で争っているから、舞台に落ちそうになってオペラが台無しになる寸前に何度も何度もなる。ドラマチックな本格派重厚なオペラを背景に、3者3様のスパイたちが最新技術の武器を駆使して争そって、十分興奮させてくれて、今までのどんなアクションシーンよりもおもしろかった。すっかり魅せられたが、オペラ嫌いな人にはどう映ったんだろう。
世界中から優れたスパイを事故を装って殺されたことにして新組織を作ってみたが、MI6の一部にしておくには跳ね上がりで、過激すぎるので解散させたが、組織はすでに勝手に独り歩きしていた、という設定や、美人MI6は二重スパイらしいとか、組織のために命を懸けて働いてきたが、信頼していた組織のトップは実は敵だった、という設定はスパイ映画では珍しくもなければ、新しくもない。オーストリアの財務大臣を夫人ともども爆弾でズタズタにしてしまったり、英国首相を誘拐して脅かしてローグネイションを作った経過を白状させたり、、、なんかアメリカ映画って、すごいな。
話の筋書が荒削りで、話が単純、突っ込みどころも満載。
ボーンドクターというまがまがしい名前の悪漢が出てくる。拷問用具を持ち歩いていて、ピカピカに光る包丁、ナタ、金つち、大小長短のナイフを広げてぞっとさせるけど、一度も道具を使わないうちに美人MI6に叩きのめされる。バイクに乗って追ったり追われたり、オペラの舞台上で格闘したり、それなり頑張るけど最後には宿命の対決で肉弾戦になって、でかいナイフを振り回すけど、小さいナイフを持った美人さんにあっけなく殺される。聳え立つでかい体、強面、冷血無血の殺し屋が見かけ倒しだったんですね。だいたい重いブーツ履いて完全武装しているのに、裾の長いパーテイードレスにヌーデイーなハイヒールを履いた女性の廻し蹴りでコケるって、なんなの。
しかし、とにかくアクションがすごい。
トム クルーズがすごい。
前に「ゴーストプロトコール」で、世界一高いドバイのビル、ブルジェハリファの828メートル高い窓に張り付いて、危険なアクションを見せてくれたトム クルーズが、今回は地上1524メートルの高さを飛ぶエアバスの機外に取りついて、そこから機内に入って敵をやっつけるというスーパーアクションを見せてくれる。このシーンを撮るために8回、繰り返し撮影したという。そのたびにトムは、走行し始めたエアバスに向かって全力疾走し、機体の外側の窓につかまって、機外にぶら下がりながら上空の寒さと強風にさらされて挌闘したわけだ。落ちたり滑ったりしていたら、映画は完成しなかった。彼も、今までの映画撮影のなかで一番危険な撮影だった、と言っている。ジャッキーチェン同様、スタントマンを使わない役者だが、その危険の度合いが並はずれている。
モロッコの水力発電所の水の底をもぐるシーンも、出口がないわけだから、危険極まりない。人は2分以上息をしないで生きている生き物だったっけ。2015年型BMW、M3新車でのカーチェイスも、フルにアクセルを踏んで階段のてっぺんから後ろに飛んで着地するなど無茶を通り越している。
モロッコでのBMWバイクのチェイスもあきれるほどだ。これだけ カーブの山道をフルスピードで走れるなら、国際バイクレースでも、マルク マルケスやバレンチーノ ロッシなど負かして優勝できる腕前ではないのか。現に本物のF1マシンに乗って、時速最高速で290KMまで記録したことのあるトム クルーズ、、、並の男ではない。役者は体が資本というが、これほど役者の体の極限まで酷使して良いものなのだろうか。
この映画は話の筋が荒削りな分だけ、映像の方はとてもよくできていて、計算しつくされており、アクションシーンにつぐアクションの連続に息をつくひまもない。大型アクションの娯楽映画の良さが詰まっている。53歳のトム クルーズが好きでない人は、この映画を見て彼のことを好ましく思い、もともと好きな人はもっと彼が好きになるだろう。スウェーデン人の美人レベッカ ファーガソンのアクションも華麗で美しい。アクションが断然おもしろい。映画を観てカンフーを習いたくなる。バイクに乗りたくなる。走りたくなる。だから、たまには娯楽映画も良いものだ。