「生者も死者も彼岸・此岸の相手への愛情溢れる想いが一杯だが…」岸辺の旅 KENZO一級建築士事務所さんの映画レビュー(感想・評価)
生者も死者も彼岸・此岸の相手への愛情溢れる想いが一杯だが…
以前のレンタルDVDでの鑑賞以来だったが、
NHKで放映されたので再鑑賞。
2回目で少しは理解が進んだのか、
今回は面白く観ることが出来た。
死者と生者の関係は自由奔放で、
生者が死者を認識出来ないことも無く、
新聞配達のシーンや廃墟に何故か配達されて
くる牛乳等には何のリアリティもない。
例えば「フィールド・ドリーム」よりも
その設定は更に荒唐無稽だ。しかし、
この映画の本旨には全く影響はなく、
抵抗無く受け止めることの出来る
演出の上手さを感じた。
死者がバスに乗って酔い止め薬を求める
なんてユーモアも
好ましく観ることが出来た。
また、夢なのかも知れないの思わせるような
妻の寝起きの描写も、
原作がどうなのは分からないが、
テーマに幅を持たせた演出に感じた。
この映画、生者も死者も
彼岸・此岸の相手への後悔や懺悔をも含めた
愛情溢れる想いが一杯だ。
そして、後段の私塾での夫の
光についての講義は意味深で、
無であり質量ゼロである幽霊である私は
無意味ではない、本当の姿のようである、
の如く語るくだりは
この映画の全てを総括しているかのようだ。
だから、残念に思えたのは、
最後の、世話になった農村の老人の長男と
主人公の妻の父親が現れるエピソードが、
前述の、夫によるこの映画の総括的講義が
描かれた後では
蛇足的で冗長にも感じられたことだ。
前半は良かっただけに、
ここは省くかコンパクトにまとめ、
妻へのお詫びと再出発への促しの
ラストシーンに時間を割いて描いた方が、
より良い作品になったような気がする。
また、どうしても尾を引いたのが、
そもそもがこの作品は
愛する夫と妻の心の交流が
中心となっているイメージなのだが、
妻を置き去りにして3年という
この作品で描かれた3家族との生活が
お詫びでは済ませるには重過ぎ、
妻への想いとの比較上
ウェイト的にどうなのかが、
私には最後まで理解が及ばなかった。
私の3回目の鑑賞の際のテーマになりそうだ。