「あわい」岸辺の旅 小二郎さんの映画レビュー(感想・評価)
あわい
黒沢監督前作『リアル』は、夢と覚めている時の境目が溶けていたが、本作は、生者と死者のあわいを溶かす。
「実は死んでいる」人が出てくる映画はシックスセンスほか結構多く、目新しいものではないけれど。
主人公二人が歩く田園がまるで天国のように穏やかで、ああこれは全員死んでいる人の話なんじゃね?と途中思ったが、そうでもなく。
私はてっきり柄本明や村岡希美も「死んでいる人」なのかとも思ったが、そうでもなく。
誰が死んでて生きているのか?はっきり分かるようで実は分からない。
いや、どう解釈するのが正解か?という類いの映画ではなく、その境目が溶けていくところが面白い。
バイクをかっ飛ばす小松政夫(死者設定・非現実)のシーンは日常的なよくある田舎の風景で、小松が死者だとわかるシーン(現実)はセットで作り物めいている。リアルと非リアルの逆転。
生きている筈の蒼井優が生き霊っぽいというか一番ホラータッチで撮られているのも可笑しくて面白い。生者と死者の逆転。
「はい、ここ怖がる所ですよ!」的な分かり易い怖さは無いけれど。
何気ない夕暮れの公園や、夜の商店街のシーン。言葉では説明できないけれど、何かがちょっと不穏な感じ。果たしてこの世なのか、あの世なのか。現実とも夢ともつかない、絶妙なホラー具合。静かな、そして繊細な映像の差異。
—
生きていようが死んでいようが、「消せぬ思い」というのはあるもので。
「消せぬ思い」は愛なのか執着なのか?そのあわいも贖罪とともに溶けていく。
「消せぬ思い」を核としたド直球のラブストーリーだったなあと思う。
前作同様に、誰かを「赦すチャンス」と、誰かから「赦されるチャンス」を描いた映画なのかなあとも思った。普段の生活ではそういうのって中々難しくって、わだかまりが溶けないままのことも多い。だからこそ心に染みる映画だった。
—
追記
浅野さん小松さんの「フラがある感じ」は幽霊だからなのか、なんなのか。おかしみもあって良かった。
追記2
肉体の実存を生業としている首藤さんが一番肉体感がなく幽霊っぽいところも良かった。首藤さんが演じた幽霊には成仏してほしいなあ。
追記3
最近、葬式があった身としては、不思議と励まされる映画だった。黒沢清に励まされる日が来るとはビックリだ。