シャトーブリアンからの手紙 : 映画評論・批評
2014年10月21日更新
2014年10月25日よりシアター・イメージフォーラムほかにてロードショー
ナチスが生んだ悲劇を静謐なタッチで描き出す、シュレンドルフの成熟した眼差し
ナチ占領下のフランス、シャトーブリアン郡の収容所で27人の政治犯が処刑された実話を、ニュー・ジャーマン・シネマの巨匠フォルカー・シュレンドルフが描く。かつての代表作「ブリキの太鼓」ではマジック・リアリズムともいうべき大胆な手法でナチスをグロテスクに諷刺し、断罪したシュレンドルフだが、本作では抑制された静謐なタッチで、この悲劇の実相に深く迫ろうとする。
若き共産党員によって1人のドイツ将校が暗殺され、ヒトラーは報復として収容所のフランス人150人の銃殺を命じる。パリのドイツ軍司令本部は命令を阻止しようとするが、徒労に終わる。処刑者リストの中には17歳のギィ・モケがいて、彼の殉教的な死がレジスタンス神話の発火点となったことは歴史的な周知の事実だが、シュレンドルフは決してギィのみを特権化し、礼讃しようとはしない。27人の政治犯たちが銃殺される直前に、モヨン神父に家族や恋人への手紙を託すくだりで、個々の苦渋と悲哀に満ちた表情をクローズアップで執拗にとらえたシーンが印象的だ。迫りくる1人1人の〈死〉をあまねく同等の重さで掬い取ろうとするシュレンドルフの強い意志が垣間見えるからだ。
さらに、神父が報復リストをつくった副知事を「銃殺は暗殺を、暗殺はさらなる銃殺を生み、報復の連鎖にしかならないのだ」と激しく叱責し、ドイツ軍人に「あなたは何に従う? 命令の奴隷になるな」と痛罵する場面にも、シュレンドルフの屈曲に富む歴史認識の視点が強く押し出されている。なによりも神父役のジャン=ピエール・ダルッサンの渋い名演が光っている。
歴史の傍観的な記述者としてエルンスト・ユンガーを、残酷な処刑に耐えきれず嘔吐する若き銃殺兵として後のノーベル賞作家ハインリヒ・ベルを登場させているのも興味深い。この2人の註釈的なキャラクターの存在にこそ、占領下におけるナチズムとコラボ(対独協力者)、そしてレジスタンスの複雑に錯綜した関係を、怜悧に、アイロニーをもってとらえようとするシュレンドルフの成熟した眼差しが感じられるのだ。
(高崎俊夫)