「戻る男。戻らない男。」百円の恋 Takehiroさんの映画レビュー(感想・評価)
戻る男。戻らない男。
『百円の恋』(2014)
Amazonプライムにて。R15の作品だが、これから観るが、どういうところだろう。主人公の32歳の引きこもりの自堕落女性の雰囲気が最初から良く出ている。妹はシングルマザーで男の子と住んでいる。姉妹の母親が妹と弁当屋をしている。母親は大目に見ているが、妹は自堕落な姉に文句を言い続ける。姉妹の家をぐちゃぐちゃにする喧嘩のシーンがすごい。こういうのは男だけではないのかも知れない。女でも引きこもってしまったり大変な人もいるのだろう。だが、誰もがこれはちょっとしたことで陥ってしまう事でもある。武正晴という監督は私と同い年なのか。主人公はまずコンビニのアルバイトに面接に行く。みるからに脱力していてやっと生きている感じであるが採用の人が良い人なのか採用された。コンビニの先輩の44歳のおじさんも変な人。主人公は、通り道のボクシングジムの、コンビニでバナナばかり大量に買っていくボクサーが縁でやがてボクシングを始めるらしい。ボクサーが新井浩文で主人公が安藤サクラが演じているが、軽トラはシートベルトいないから下手すると捕まるし、危ない。ここら辺がR15なのか。ボクサーは主人公を動物園にデートに誘う。主人公はボクサーをよく思っているらしく、応じる。動物園でのデート。それなのに短調の口笛のBGMが独特なセンスな感じでもあるし、『太陽にほえろ』とか、1970年頃のテレビドラマでよく流れていた感じもする。44歳のおじさんが主人公をデートに誘うが、そのキャラクターからどうにも情けない感じだし、キャラクターってやだなと思った。辛いものがある。ここが話として凝っているんだが、ボクサーがコンビニにさらっとチケットを2枚置いていき、おじさんと主人公が観にいくが、それがボクサーの6回戦の試合だった。ボクサーは圧倒的に負けるのだが、主人公は食い入るようにみつめ、何かが始まった。なぜタイトルが『100円の恋』なのかと思っていたが、
コンビニが『百円生活』という名前だった。おじさん、情けないというより犯罪だと思うが、ホテルに主人公を連れ込んでしまい、強引に性行為を迫る。これでは犯罪シーンである。主人公は電話してレイプされたと告げる。初体験をレイプされてしまったのだが、44歳のおじさんは犯罪者となった。自業自得としかいいようがない。泣き寝入りしない女で正しい。ボクサーが好きなのに可哀そうに。しかし、コンビニはその後どうなっていくのだろう。犯罪者はなぜかコンビニの金を泥棒して逃げてしまった。犯罪にならなかったのだろうか。主人公は全く悪くないというか被害者なのだから、コンビニを続ける。ボクサーは年齢制限で辞めていたが、主人公はそのボクシングジムに入門する。個人的な事だが、私も31歳から32歳にかけてだっただろうか、ボクシングジムに通ったことがある。あの頃はそれでも今から思えば若かった。しかし犯罪をしてしまうような周辺の人物が数人も出てくるのだが、こうした不器用な人達は一体どれだけいるのだろう。しかし、安藤サクラは、自堕落な役からボクシングを上達していく役だろうから、大変だったと思う。しかしこの資本主義と大企業から中堅企業が人を裕福にしている国で、低所得で闘っている人達がいる。不器用な人生。男も女も。ボクサーにしても主人公にしても36歳と32歳の男女で不器用な関係だ。偶然が重なって、熱で倒れた女のアパートでボクサーが肉を調理するが硬くて噛み切れないというシーンは、
笑えるかと思ったら泣いてしまうシーンだった。44歳のレイプ犯とは違う。女のほうが男に寄り添って泣きわめいてしまう後で、ボクサーとも性行為になってしまうのだが、同じようで違う行為ということか。あまり褒められたものではないのだが。だがそうなってしまっては、もう離れないということだろう。生涯。本当は。良くはないと書いておくが、ボクサーと主人公は同棲生活を始めることになった。性描写もある。個人的にはこうした描写ありの映画はすべて評価を下げることにしている。主人公は女でやたら煙草を吸う。ボクサーはようやく豆腐屋をしている女に雇われるが、浮気というか二股というか、豆腐屋の女のほうに行ってしまうらしい。この話は重要だと思う。結局、合意と不合意の違いはあろうとも、44歳の不合意の男は犯罪者としてよくわかるが、ボクサーのほうも、合意していても、離れていく過程で裏切るのである。犯罪に思われていないが、犯罪と同様だろう。
主人公が受けた二人の男の仕打ちは合意でも不合意でも同様に女を騙したり暴力だったりするのだ。ボクサーは豆腐屋の女と一緒にまわっているとき、主人公が待ち伏せすると、妹だと吐き捨てた。豆腐屋は似てないでやんのと切り捨てていった。ひどい話である。主人公は怒りなのか何なんか、ボクシングにのめり込んでいった。動きも体つきも変わっていった。安藤サクラは大変だっただろう。ボクシングトレーナーの爽やかな俳優は実際にもボクシングトレーナーだということだ。32歳ぎりぎりでプロテストに臨むが、かなりさまになっている。そして合格する。しかし、コンビニはクビになってしまう。優しい採用担当だった店長は入院かなにかでいなくて、嫌みな本部の人を殴ってやめた。それでもボクシングを続けていた。それをなぜか浮気ボクサーが遠くからみていた。このころの主人公は体つきも表情も鋭くなっていて、最初の頃の感じと違っている。そして父母と妹と弁当屋をやるようになる。男たちに騙されても、拠り所は家族がいた。ところが情けないことに、浮気ボクサーは、豆腐屋の女に捨てられたらしく、(それを捨てたという嘘が、実際の社会でもかなりあるのではないかという参考になるセリフだった)交通警備員になって、弁当屋に買いにいったら、主人公が店頭で逃げるが、追いかけて、公園で二人で話をするが、男は弁当の容器を袋ごと道端に投げ捨てて仕事に戻る。これではごみを清掃している人達にも悪い。R15指定だが、15歳でこんなのみたら悪いことだとわからないだろう。しかし安藤サクラの運動神経の変化というのはすごいものである。演技でも運動神経が無ければああは行かなかっただろう。しかし、人間とは目的が一つあればずいぶん変われるんだろうと勇気を与えると思う。特に現在の都会では迷走している人が多いだろうから。都会に限らないかも知れないが。初の試合に臨むが、ここで映像のテクニックも使われている。ひどい男たちに出会ってしまったが、ボクシングジムの指導の男たちはしっかりした男性だった。立て続けに男に騙されるという試練とそうした性の面ではひどい内容だが、さらにかなり上達したと思われ、プロにまで合格したボクシングでも、初の試合で主人公にこの映画は試練を与える。父母と妹と甥っ子は心配してみている。会長は冷静である。女対女ではあるが、闘いの場に容赦もないし憐憫もない。2ラウンドまで大差で負けているペースで、
3ラウンド。相手は強い。少し反撃するが、倒されたときに今までの思い出が主人公の頭をよぎる。
なぜか浮気者元ボクサーも来ていた。白目をむくシーンが凄まじい。浮気者や妹や会長が厳しくも愛情ある罵声を浴びせると、相手がいないのに、わけがわからなくなり、立ってこぶしを振り回すが、試合は終わった。会長がボクシングは甘くないんだと言った通りだった。BGMがまた昭和のようなセンスの音なのだが、救いは父母や妹や甥っ子。会長やトレーナー、そして浮気者の元ボクサーが見守っていたことだ。この女性を頑張らなかったとは誰も言えない。そしてラストシーン。
長回しの、戻ってきてしまった浮気者元ボクサーとのシーン。支え合いが本当にあるのなら戻ってきてしまうのか。来るも自由、去るも自由の時代に、戻って来るという事。戻ってきた場合には、その関係は純愛として再び継続されるのだ。やさぐれた都会の一面。きらびやかなほうと反対のほうの恋と愛。自堕落に引きこもっていたら出会えなかった日々。主題歌が100円でなくて108円。消費税込みだ。そしてこのコメントを美化するつもりもない。それでさえも、婚前交渉は良くはない事だと書いておかねばいけないと私の責任で思う。