劇場公開日 2015年6月13日

  • 予告編を見る

「時代は変わったようですが、それでも人を思いやる細やかな感情は日本人が日本人である限り変わらないのです」海街diary あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0時代は変わったようですが、それでも人を思いやる細やかな感情は日本人が日本人である限り変わらないのです

2020年7月3日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

前作の「そして父になる」では男の子でした
本作では女の子供を扱っています
女の子は父に対して男の子とは全く違う強い感情を持っているようです

四姉妹の物語といえば、「若草物語」と「細雪」が思い出されます

本作は四姉妹が同居して暮らしていく物語です
そして四姉妹の様々な出来事を季節の変化と共に、それぞれが「リトル・ウィミン」に成長していくというテーマは本作と共通しています
ですから「若草物語」そのものです
その見事な翻案だと思います
もしかしたら梅酒の梅は若草物語のプラムフィールドのもじりで、是枝監督からの元ネタばらしだったのかも知れません

若草物語はいくつかありますが、自分は1949年公開のマーヴィン・ルロイ監督の作品をおすすめします

本作は鎌倉が舞台です
鎌倉といえば小津安二郎監督作品の名作の数々が思い出されます
本作の四姉妹が暮らす古い家は、その小津安二郎監督作品に登場したあの家と、門構え、庭、廊下、突き当たりの階段などなど、ほぼ同じ作りのようです
家への道も舗装されていますが似ています
あの名作の数々のドラマがあった時代から60年経っています
小津作品の父母は、本作の四姉妹の曽祖父母の年代です
彼女達の祖父母が、小津作品の青年や原節子が演じた娘達の年代になります
では本作の父母はというと、小津作品に登場した小さな子供達なのです
それ程、時は流れました

あれほど娘を思い父を心配した家族が暮らしていた家の60年後の物語です
父も母もまだ子供だった娘達を置き去りにしていったのです
原節子の世代の祖母が娘達を大人まで育ててくれたのです

お葬式や、法事で、物語が駆動されていく本作の仕掛けは、こうした世代の移り変わりを伝えているものだと思います
不思議なことに本作公開の2015年6月から3ヵ月後の9月に原節子がお亡くなりになっていたそうです
95歳だったそうです
新しい女優達が傑作をつくり、大女優がお亡くなりになっていく
時代の変転そのものです

このように時代はゆっくりと確実に変転していきます
しかし、鎌倉の美しい光景、自然はあの頃の面影をしっかりと留めています

同じように、時代は変わったようですが、それでも人を思いやる細やかな感情は日本人が日本人である限り変わらないのです

四姉妹は葬式の帰り、浜辺で気を紛らわします
それぞれが「リトル・ウィミン」に成長した姿です
父と母のそれぞれの心情を大人として思いやれるようになっていたのです

それぞれの新しい人生の出発です
すずも大きな声を出して、自分の母の事も言えたことで、自分の居場所だとついに実感します
そしてそれは同時に、その事もすべて受け止められるようになった幸が成長した瞬間だったのです

その成長は彼女の不倫の恋も終わらせたのだと思います

鎌倉の古い家で四姉妹達はこれからも暮らしていくでしょう
やがてひとりふたりと結婚していつかは空き家になる日も近いでしょう

それでも鎌倉は古い佇まいを残していくのだと思うのです

皆、素晴らしい役者さんばかりでした
自分は千佳を演じた夏帆の演技に驚嘆しました
恐るべき自然さです
これほどの自然さな演技を観たことはないです

是枝裕和監督の演出の素晴らしさ
テーマを重層化させているところ
本当に見応えのある作品でした
傑作です

あき240