「Kill Your Darlings」キル・ユア・ダーリン 重金属製の男さんの映画レビュー(感想・評価)
Kill Your Darlings
かの有名なビートニク詩人のアレン・ギンズバーグが主人公の本作。彼については大学の講義でその生涯と著書を習った程度でしかなかったため、彼の学生時代を取り巻いていた現実を史実を基にしたという脚本を通して知ることができたのは新鮮であった。
歴史に名を残すような人たちはやはりどこか秀でているものなのだろうか。伝統を重んじるコロンビア大学の姿勢に相反して新派を起こそうとするアレンたちの姿勢は、まさに「新しい文学の創造」を感じさせた。私にとって「詩」がビジネスとして商業的に成功していたことが今では実感しづらい。それに文学は孤独な作業の連続で、なおかつ高尚なイメージがあるため、結果的に身も心も滅ぼしてまで文学に熱狂した若者たちがいたことが、遥か遠い世界での出来事であることをより一層強調していたように感じる。
この映画の登場人物の関係図を描くとすれば、ルシアン・カーを中心に据えるのは間違いないだろう。それぐらいこの映画(一連の事件と言ったほうがよいだろうか)は彼を中心として進行していく。デイン・デハーン演じるルシアン・カーはその佇まいや美貌もさることながら、行動や発言も他とは一線を画すところがあり、何かと目を引く存在だったに違いない。そして何より他者に取り入るのが上手く、ジャックやデヴィッド、アレンにとってはいわゆるファムファタール的な人物だったのではないだろうか。
本作の主題は、新たな文学の新派の勃興を記録したドキュメンタリー的なものである一方で、他者との良い関係を築く上でのあるべき姿勢のようなものを問われている気がした。ルシアンのように自らの弱い部分を隠して虚勢(でもないかもしれないが)を張るだけでは、一切の信頼関係を築くことはできないのだろう。因果応報なのか、アレンが決別を決めた留置場での彼の姿はとても惨めだった。しかしその後アレンは最初の詩集でルシアンへ献辞を捧げており、彼は友人としてルシアンの更生を願っていたのではないだろうか。