「観客に委ねすぎ」悼む人 えのきちさんの映画レビュー(感想・評価)
観客に委ねすぎ
『悼む人』を鑑賞。
天童荒太の直木賞受賞作である同名小説の映画化。監督は堤幸彦。
何らかの事情でこの世を去った人を悼む旅を続ける坂築静人(高良健吾)は、故人が誰に愛され愛したかを訪ねながら悼んでゆく。
さて、鑑賞しての第一印象は観る者に委ねているなという点。
生死とはどういう事か、悼むとはどういう事なのか。この作品のテーマには明確な答えがあるわけではない。
作品の中では様々な事情を抱えた登場人物達によるそれぞれの生死に関わるエピソードが描かれているが、明確に「悼む」という事に対する理解や理念が語られる事はない。
静人が行う悼みの所作は常に同じだし、死者を差別することもない。その行いには一切の感情が込められておらず、その故人が生きていたという事実を胸に刻み込むのだという。
要は非常にわかりにくいのだ。
深読みすれば非常に奥深く感じる事も出来るし、見方によっては静人の行いは最後まで理解できず滑稽にさえ映る。
観客への投げかけと言えば聞こえは良いが、少し委ねすぎではないか。
テーマが非常に深いだけにもう少しこの作品からの解に近いものを提示し観客に問題提起すれば、観終わった後により深く考えさせられたのではないだろうか。
また、共感しにくい登場人物が多い事も全体的にわかりにくくさせる要因となっている。
雰囲気や役者の演技が良かっただけに実に惜しいと感じる作品であった。
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