劇場公開日 2015年2月14日

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悼む人 : インタビュー

2015年2月16日更新
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高良健吾&椎名桔平「悼む人」で体現してみせた珠玉のメッセージ

「悼む人」のタイトルロール・坂築静人は、亡くなった人のさまざまな「愛」を記憶にとどめて旅を続けている。高良健吾はどう演じるのかではなく、どのように現場でいられるかに悩み、しゅん巡し、確認しながら歩を進めた。雑誌記者・蒔野抗太郎は静人の行為を偽善と断じつつも、次第に心を揺り動かされていく。椎名桔平は個性を際立たせることで、静人との対比が明確になることを意識した。2人は命の尊厳と真摯に向き合い、それぞれの信念をスクリーンに刻み込んでいる。(取材・文/鈴木元、写真/江藤海彦)

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きりりとした目元が印象的な端正な面立ちと、繊細さを漂わせる雰囲気。高良に抱いていたイメージだ。そのためか、これまではどこかストイックで感情を表に出さない役どころが多かったように思う。

「10代後半から20代前半は“死が近かった”です。ほとんどそうじゃないかと思うくらい、殺したり殺されたりという役が多くて。死は、あっちから近づいてくるものだと思っていたんですけれど、役の上では死というものに自分から行くというか。それがしんどい時期がずっとありました」

そして、結果的にデビュー10年目の節目に公開されることになる、天童荒太氏の直木賞受賞作である「悼む人」の静人に出会った。人々が亡くなった場所を訪れ、「誰を愛し、誰に愛され、どんなことをして人に感謝されたか」を知り、その死を悼む巡礼のような旅をしている青年。出演を決意するうえで背中を押したのが、末期がんと闘う母・巡子(大竹しのぶ)が蒔野に対して言う「あなたの目に静人はどう映っていますか?」というセリフだった。

「脚本を読んだ時に、静人や作品のことを分かってほしいという気持ちで現場にいたら良くないのかなと。(静人の行為は)褒めてほしいわけでも、パフォーマンスでもない。半径のすごく狭いところでいろいろと決着をつけなきゃいけないのかなと思いました。どこかで静人を皆で共有しようとしたんですが、母の言葉のおかげで、自分が思う静人、感じる静人をやろうと思えたので、母の言葉の存在は大きかったですね」

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一方の椎名は、2000年の連続ドラマ「永遠の仔」で天童作品を経験している。「悼む人」も愛読していたそうで、その世界観が集約された脚本を高く評価する。

「原作の世界観を損なうことなく脚本化されているなという印象でした。天童作品の世界観は少しは理解していたので、それをまた体現できると思いましたね」

蒔野は凄惨な事件などをネタにスクープを狙うジャーナリスト。時には手段を選ばない

取材方法で、周囲からは“エグノ”と揶揄(やゆ)されており、椎名も「蒔野はひどいからねえ」と苦笑するが、演じるうえでは1人の人間として生き方を変えていく心情の移ろいがテーマだったという。

「どの世界もそうですけれど、その中で一番低俗なやり方をしている人種ですよね。それを良しとしている人間像がベースにあって、そこからの着地点はマスコミの人ということではなく、1人の人間として変わっていくということ。年齢も重ね、どこかに諦観も身にまとっている人間が、年を取ってからでも自分の中に変化をもたらし違った人生観を持てるのかというのが、蒔野に与えられた使命だと思いました」

左ひざをつき、右手を天に掲げ、左手は地面をすくうようにしてから胸の前で両手を合わせ悼むのが、静人のスタイル。亡くなった者たちの境遇や、ロケ地の風景、天候、気温、風の具合などによって微妙に変化をつけているという。堤幸彦監督ともその都度話し合いながら、その道程を旅することで徐々に静人を取り込んでいった。

「どんな命であれ差別しないということは静人から感じました。批判対象になる行為でもあることは自覚していますけれど、静人がいればどんな命でも愛して愛されて誰かに感謝されたことにしてくれる。やったからこそ味方でいたいから、静人の存在は尊い感じがしましたね」

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静人の悼みは、蒔野や巡子ら家族、遺族らの人生に波風を立てていく。最も影響を受けるのが、旅に同行することになる奈義倖世(石田ゆり子)だ。夫を殺した罪悪感にさいなまれてすがるように静人についていき、次第に心を通わせていくが、高良にとっても支えになったようだ。

「目の前に人がいると、脚本を読んでいた時より全然印象が変わりますからうれしいですよ。石田さんの倖世ははかなくて、何か消えそうでそれでいて救いを求めてくるのでちょっと気味悪くて…。旅が終わった後も、本当に一緒に旅したんだよなあって、半透明というかそんな感じです」

取材対象としてしか見ていなかった蒔野も、静人のいちずな姿に感化されていく。幼少の頃の確執で没交渉だった父親の死期が迫っていることもあり、表面的には露悪的に振る舞いながらも、自問自答を繰り返し人生を見つめ直す過程が強く印象に残る。

「父親との愛憎が蒔野の根幹になっているので、(役を)つくるうえで大事な部分にはなっていましたね。高良くんは感情のさじ加減を意識したように、蒔野は静人が引いている分、逆に出していこうと僕は考えていましたね。そこでキャラクターが明確に分かれて、作品の中でも効果的かなと思っていたので」

倖世と深いきずなで結ばれたものの、別々の道を選択し旅を続けるだろう静人。自らも命の危機にさらされたことで「静人がどう映っていたか」を悟る蒔野。共に達成感より反省が先に立つところは役者の性といえるが、2人の表情からは充実した撮影であったことがうかがえる。

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高良「長い期間やればやるほどすごく楽しいんです。主演で1カ月半近くいられたので、寂しさの方が大きいですね。本編を見ると、静人が何かを変えたくてやっていたわけではないけれど、周りの人の人生が変わっていった。合点がいった部分はたくさんあったし、静人の旅は変わるだろうなと思う。彼の旅は終わらないけれど、きっと形は変わると思います」

椎名「まだ健在ですけれど、親の死が近づいてくる年齢になると、死ぬ、死なないの話もどこか絵空事じゃないというか、無意識にリンクしている部分は出てくると思う。役者の表現も経験に基づいた力を広げていかなきゃいけない稼業だとも思っているので、自然に生き方のとらえ方が変わっていくことが、人としても役者としてもだいご味なんだと思いますね」

死との向き合い方は異なるが、共に死は愛で満たされるべきものという概念に帰結し、その死を忘れないために生きていくことこそが重要であると説く。この珠玉のメッセージを、多くの観客に感じていただきたい。

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