ローマに消えた男のレビュー・感想・評価
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常識はずれな方法で変わる弟と変える兄。
◯作品全体
ビターな空気感や暗めの彩度から、堅物な主人公・エンリコを中心とした政争ドラマを中心とした作品だと思ったけれど想像以上にコミカルな物語でびっくりした。
双子の兄・ジョバンニが第一野党党首の弟・エンリコと入れ替わり、生真面目なエンリコとは打って変わって心に響く言葉で党内や国民を扇動していく。一方のエンリコは学生時代のガールフレンドの家に身を寄せ、映画の小道具係になり、親しげな女性を作って悠々自適な生活で心を癒すのだが、どちらも冷静に考えると突飛もない設定なうえ、一歩踏み外してしまえば完全なコメディ映画になってしまう。しかし硬派な映像の質感と落ち着いたBGMによって、まったくそうさせていないのが不思議だし、面白い。
変わる弟と変える兄の対比が印象的だった。弟・エンリコは作中で様々な人に出会い、様々な表情を見せていく。強張った表情が少しずつ絆されていき、エンリコ本来の姿が少しずつ見えてくるような、「変わる姿」が印象に残った。対して兄・ジョバンニは政治家や民衆を本音の言葉で心を動かす。停滞していた政治に光を差す「変える姿」が眩しい。
ただ、協力を求められたジョバンニはまだしも、エンリコは堅物な顔をしておいてやってることが結構ヤバい。職場を投げ出し、妻をも放り出し、ひとり若者ムーブをかましている。それでもこれを原題にある「自由」をポジティブに描くのがイタリアの個性なのかも知れないし、頭の中で浮かんでくる「全てを投げ出してこんなことしてみたい」を肯定し、変化を描けるのは、それはそれで健全なような気がした。
ラストに映る人物はエンリコだと感じた。厳しい表情から口角を釣り上げるような笑顔に変化する姿は、エンリコの「変わる」を象徴しているように見えた。ラストカットではあるがたったの1カットで自由によって変わったエンリコを映すのがまた面白いな、と感じた。
◯カメラワークとか
・兄弟二人とも唐突に現れるカットが多い。どっちがどっちか混乱させようとする意図があるのかも。
・照明や色味は渋くてかっこよかったけど、カメラワークは日本のテレビドラマみたいだった。表情とアクションをひたすら追い続けるような撮り方。見やすいといえば見やすいけど、少し単調に感じた。
◯その他
・エンリコの心折れるタイミングが冒頭すぎて、もう少し過程を描写してもよかったんじゃないかなとか、ジョバンニは今までなにをしてなにを考えていたんだろうとか、エンリコの妻はどう考えが推移していったんだろうとか、語られていないものが多すぎた気がする。落ち着いた質感とライトな感じの物語のギャップは面白いけど、引っかかる部分も結構あった。
トランプが襲撃された1週間後に
トランプが襲撃された1週間後に本作を鑑賞。そしてバイデン撤退と、世界は波乱の1週間でした。こんなカオスな場所と化け物みたいな人達に囲まれていたら政治家を辞めたくなるのも至極当然。
本作みたいに双子だったら替え玉になってくれるのに。替え玉も肝が据わっていますね。
物語は淡々としているので、人を選ぶ作品です。
「問い」を残すサスペンス
双子の入れ替わりを主眼に据えたサスペンス。双子の弟・エンリケが最大野党の党首なのだが、党大会で野次られるほどの支持率の低さ。
党大会って言ったら集まってるのは皆支持者だろうに、そんな場で罵倒されるっていうのはどんな気持ちなんだろう?
生き延びるために妥協を重ねたユーロコミュニズムとエンリケが重なるようで、憐れみ深い。
自分の居所を完全に見失い、国際大会をブッチ切って失踪するエンリケ。そこで急遽代打に抜擢されたのが、双子の兄ジョバンニ。
それってアリなの?!精神病院から退院したてのヤバめのおっさん(ド素人)だよ?!
替え玉ジョバンニの一挙手一投足にハラハラしつつ、フランスで昔の恋人に厄介になりながら平穏な生活を送るエンリケにほっこりする。
シリアスなのにコメディのようにも感じるのは、この97分間に食事のシーンが7回もあるからなのか。さすがイタリアだな!
でも、ご飯を食べるシーンがあるから、登場人物を地肉の通った人間に感じられる。
とにかく、双子を1人2役で演じているトニ・セルヴィッロが素晴らしい。そっくり(同じ人なのだから当たり前だけど)なのに、兄弟の微妙な違いを観ているこちらにストレスなく感じさせてくれる。
そしてラストシーン。
このシーンの解釈を巡って、我が家では旦那の意見が採択されたのだが、誰かと一緒に観る人は、是非、自分の意見を述べるといいと思う。
原題は「自由万歳!」だが、「ローマに消えた男」の方が、味わい深い。
怖いくらい別人格の双子
双子入れ替わり作品で良くあるパターンかと思いきや、まるで別人格の政治家。
裏表のようなザワっとする演技に引き込まれる。
ラストの意味深。
そして存在感ありありの秘書役:ヴァレリオ・マスタンドレア。
”おとなの事情”でなんとなくファンになってしまったのだけれど、
この作品で出会えるなんて♡。
彼って素敵なのに表情がどうしてもコメディになっちゃうのね。
どちらにしてもこの作品はお薦だ!
ユーモアとウィットだけではどうにもならぬこともあるわけだが・・・
「グレート・ビューティ」以来、トニ・セルビッロに魅了されてしまっている。この利よりの八の字眉毛に、ただそれだけにほだされてしまっている。政治家の役にはピッタリだ。イタリアの政治には全く関心も興味も沸きわしなかったけれど政治家の性質を知るには面白い映画だ。太平洋の向こうの国の大統領選挙のお祭り騒ぎと対比してしまったけれど愚かさを可愛げに変えてしまえるのは年寄の政治家にしかできないと痛感した。国の政の本質を見抜けぬ者は国をまとめることはできないしそれを知らしめるためには敵を明確に指摘するのは最も野卑で下劣な方法なのだ。攻撃する相手にはユーモアとウイットで返答しすかさず本意を突く言葉を投げるだけでいいのだ。
この映画の痛快さは、随所に散りばめられている。しかし、ラストほど絵にかいた痛快さはない。
カメレオン俳優、トニ!
途中でわかったけれど、あっぶない橋を渡ったな~。
彼女は本当に二人を愛していたんだと思う。彼の右目と彼の左目。ダニエル役の女優さんとても素敵。年齢差関係なく、素敵だなと思ったら男からでも女からでもデートに誘えるのはいいな。でも、昔の恋人はいつだって忘れることなく心の中にある…のは、男の人の願望かな。
政治家は言葉が勝負の職業だから要注意!あまりにも大勢の人間の心を一気に掴んで興奮させ感動させてしまう演説は危ない。今の日本は言葉がないがしろにされて機能不全に陥っているから、それ以前の話で問題外だけれど。
イタリアの大統領公邸は世界一の規模で1800人以上が働いている。英国王室で300人、スペイン王室は543人、ホワイトハウスは500人(日本の皇室は1000人)(データは古い可能性あります)!公邸の広さも半端なく警備も専用の司祭も沢山いて、その片鱗だけでもこの映画で見ることできたのは嬉しかった。イタリアにはまだ女性の首相は居ないけれど映画では可能。
音楽の使い方がよかった。髪の色ー白髪も素敵ねー、男女のヘアスタイル、衣装、靴、インテリア、全部素敵だった。一人二役どころか三役のトニは凄い!フランス語もダンスもハミングも変な歩き方も。そしてトニの笑顔を見ると元気になる。
オペラ演出家の素性が隠しきれない
監督が本場イタリアオペラのオペラ演出家だけあって、音楽、というより音の使い方がいい。足音、ワインをグラスに注ぐ音、ドアを閉める音、パソコンキーボードを高く音、自動車のクラクション、パトカーのサイレン、 音が建物の内部で反響する音響。
音と映像だけでも楽しめる。
セリフってなんだろう、という思いがする。
勝負どころで使ってくる音楽(ヴェルディ)もいい。そこはさすがオペラ監督。
セリフやストーリーはいかにもイタリアらしい軽さのある映画だけど、セリフは歌詞だと見なせばまた面白くなる。耳で聞くと一層面白みが増す。
おススメ作品です
劇場公開時に見逃していて、DVDで自宅鑑賞しました。
周囲にこの作品を観た人がいなかったので、「期待度半分」という感じで観たのですが、面白かったです。
ラストの部分が少しわかりづらくて、他の方のレビューを読んでみたら同様な事が書いてあり、安心(?)しました。
94分と短い作品なのでまた観てみたいです。
主人公「兄」の演説は魅力たっぷりでした。
軟硬絶妙な芝居と演出
国政を担う政治家の失踪、俄かに焦りだす政党、というエピソードから始まる物語。失踪した主人公に代わり双子の弟が秘密裏に兄の代役を務めるのだが...
双子の性格の違いをうまくストーリーに反映していて、ある意味狂気とも思える弟の政治演説に盛り上がっていく民衆と政党。登場人物のココロの動きに重心をおいた脚本・演出に好感がもてた。ひとり二役を演じたトニ・セルビッロのややオーバーな演技も淡々と進むストーリーのなかでいいアクセントになっていたし、脇を固める俳優陣の演技も良かった。
軟硬絶妙な芝居と演出。陰陽、結末はどちらともとれる謎めいた感じではあるが、それはそれで、全篇を貫く表現の中に収まる首尾一貫した流れで良かったのではないかと思う。
邦題はあまりピンと来なかった。
中年の危機
ある年齢に達するともう一度自分に向き合う機会が訪れる。それはきっと危機的状況の中で。
自分自身である、自分自身を生きる事を双子、替え玉であぶり出していく。
彼らの周りも、カラクリを知っていても知らなくても、少し自分に向き合う機会を得る。
会話や演説に言葉の力を感じたのと同時に、間や沈黙も語っていた。
ラストの彼は誰だろう?
小難しくて分からない…
なんか言ってる事が小難しくて、あんまり深くまで意味がわからなかった。
結局最後は戻って来たんですよね?
分からない…
ラストの描き方が謎を呼びます
イタリア統一選挙が差し迫る中、支持率が低迷している野党の書記長が失踪。窮地に陥った書記長の腹心は、書記長の双子の兄弟を担ぎだして、難局を乗り越えようとする・・・。
そう言うあらすじだと、もう少し、ドタバタして喜劇的に描かれても良いと思うのですが、意外や意外ドタバタ喜劇的ではありません。意外に、深いテーマが、非常に上手く描かれています。
何と言っても、一人二役のトニ・セルビッロですかねぇ。エンリコは現在の問題にひとりで深く悩む感じであったのに対し、ジョバンニはエンリコと違い、ウィットに富んだコメントを多発するちょっと“危険な“キャラ。全く違うキャラを、非常に上手く演じきっています。いやぁ、見事。彼の見事な演技があるんで、この作品が成り立つんですよね。
それと中々意味深だったのが、ラスト。あれは一体・・・と言う感じで終わります。いやぁ、観客に考えさせるという演出ですが、まんまと考えさせられますねぇ(笑)。あんまり書くと、ネタバレになってしまうのでかけませんが、元に戻ったとする解釈と、実は・・・と言う解釈の二通りの解釈が可能です。
って言うか、どちらかと言うと、後者?
入り込み難い
予備知識がないと主人公がどんな立場の人間かがわかり難く、後半は見た目も一緒になるから場面転換直後はどちらか迷う。
ストーリーは良くある話しだけど、それほどの立場の人ならばれない訳がないし資質までもが…都合が良すぎるし、みんな不貞だし。
都合が良いのは置いておくとしてもイタリアの政治や思想や文化がわからない自分は作中に入り込めなかった。
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