妻への家路のレビュー・感想・評価
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革命芸術への思い
「紅いコーリャン」とそれに続くチャン・イーモウ作品の独特の色彩世界を期待して観ると肩透かしを食う。
若い頃の鮮烈でエネルギッシュな画面ではなく、肩の力を抜いて、歴史に翻弄された一家の健気な姿を冷静に映し撮っている。
今作の撮影は、4Kデジタルカメラを使用しているらしく、スクリーンに映し出されるものが何から何まで明快である。
そのことを最も強く感じたのはコン・リーの容貌に刻み込まれた年齢である。「紅い~」からの彼女を観てきた観客はきっと、夫の帰りを待ち続けた主人公の年月と、女優として歩み続けてきたコン・リー本人の年月とを重ね合わせることになるだろう。
また、親子3人がそろった家で、娘のバレエを夫婦で見るところでは、リーとチェン・ダオミンには自然な窓からの光りが当たっているのに、彼らの若く美しい娘の顔には陰ができている。このほかのチャン・ホエウェンの踊るシーンもどれも影が深い。現代の映画製作者が、文革期に創作された革命を称揚する舞台芸術にどのような感情を抱いているのかをうかがい知ることができる。
彼女が踊るのは、チェン・カイコーの「覇王別姫」においても苦々しく描かれていた革命芸術なのだ。
文化大革命始末記。
1977 年に終息した筈の文化大革命がその後、何年、経っても尚、人々を苦しめるという悪夢のような筋書きなのですが、この監督の描き方は往時の権力者の過ちを声高に責め立てることはなく、あくまでも市井の人間のメロドラマとして、情感豊かに描いていきます。ハリウッドの資本で映画を撮る前のチャン・イーモウが戻ってきた、という感じがします。
残念だったのは、公開二日目なのにも拘わらず、観客の入りが二割程度だったことです。もしかしたら、昨今の中国に対する悪感情が反映されてのことなのかもしれませんが、最近の日本映画の堕落ぶり(小学生向きか、と思われるような拙劣な実写作品が雨後の筍の如く製作されているのにはあきれ果ててしまいます)を考えると、この作品は近年、稀に見る、大人の鑑賞に十分耐えうるものとなっています。私も中国共産党は大嫌いですが、そのことを以てしてこの映画を観ないのであれば、非常に勿体ないことです。
手練の演出、抜群のカメラワークを観るだけでも、十分、お釣りが返ってくる、そんな映画です。
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