「映像は壮大。内容は少年漫画と少女漫画の混ぜ合わせ。」パッセンジャー 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
映像は壮大。内容は少年漫画と少女漫画の混ぜ合わせ。
今を時めくキャストと監督と、大金を投じたであろう3D映像とが集合して、どうしてこんなつまらない映画になったのか・・・。何しろ内容が、少年漫画と少女漫画を合わせただけのような稚拙さで、過去の類似作「ゼロ・グラヴィティ」や「オデッセイ」と比しても物語性やテーマ性が著しく劣っている。
クリス・プラットは端正な顔立ちと鍛え上げられた肉体を有し、スター性を発揮するが、佇まいや振る舞いにスマートさがなく、終始マヌケに見えてしまう。宇宙船の中でただ一人目覚めてしまった不運と悲劇の描写よりも、開き直ってダンスゲームに興じる姿の方が印象的に映し出され、真に迫ってこない。ジェニファー・ローレンスが目を覚まし、彼女が物語に知性を持ち込んできてようやく安堵したかと思えば、そこから物語は一気に少女漫画顔負けのロマンティック・コメディに流れ込む。早々に問題からは目をそらし、二人の愛の世界に没入していく様は、まるでニコラス・スパークス映画でも見ているかのような陶酔ぶり。設定も背景もスパークス映画とはまったく共通点が無いにも関わらず、である。
ジェニファー・ローレンスを自らの手で目覚めさせ、彼女の人生を変えてしまった罪についても、まるで痴情の縺れ程度の展開に結びつくだけで、その重大さがまったく感じられない。
やっと見たかった物語が観られるようになるのは、3人目の目覚めた乗客ガスが登場して以降。しかし彼の登場も、結局は主人公二人を和解させることと、どこにでも入れるIDを渡すためだけに都合好く使われているだけに過ぎず、あっという間にその存在を消されてしまう。だってほら、「この世に二人だけの美男美女」っていう設定が最優先だから。
クライマックスも、クリス・プラットが宇宙船を熟知していて、しかも有能な技術者だからなんでもその手で出来てしまうのが見え見えだから、まったくハラハラもしません。
クリス・プラットのお尻やらジェニファー・ローレンスの水着姿やらといったサービスショットだけは律儀に用意していながら、脚本は全く推敲されないまま映画を作ってしまったかのよう。脚本を読んだ時点で、大金を投じて壮大な映像を作り上げ、一流のスター女優と監督を呼び込むほどの価値のない話だって分かりそうなものを・・・と嫌味が思わず漏れてしまう。
ジェニファー・ローレンスが、過去の出演作と並べても一際美しく撮られていたのだけがファンとしてはせめてもの救いだった。