「これも、<どんなことでも起こりうる>というお話」ハードエイト redirさんの映画レビュー(感想・評価)
これも、<どんなことでも起こりうる>というお話
ということをみせつけてくれる、[マグノリア]のボールトーマスアンダーソン監督の長編デビュー作とのことで大いに期待、冒頭のシーン。アメリカンダイナーの前を横切る超長いトレーラーが舞台の幕のようにスクリーンの視界を開くと、ダイナーの前に座り込み途方に暮れるジョン、偶然通りがかりのビシッとした身なり眼球鋭くエレガントな老人シドニー。母親を亡くし葬儀代が必要でラスベガスに当てに行くが一文なしとなってしまったジョン、、、ラスベガスて、そんなふうに金持ちでも優雅でもない人も引き寄せるのだなと思い、そこには、なんとか良きにつけ悪しきにつけ成功しようという人らが吹き溜まり、シドニーの知恵と経験を惜しみなく伝授しまった導き、ジョンはなんとか暮らしていけるようになる。ジョンが好きになったクレメンタインもカジノのバーで売春を強要されるような境遇でその日暮らしをしており、貧困彼女は[ワンダ]のような、なんとも人任せな感じの、なんかとっ散らかってしまった人生に望みも何もない感じ。曲者のジミーがわりこんできて、シドニーとジョンの関係を微妙に変えていくのだが、最後までシドニーはジョンを見捨てない。
冒頭でシドニーがジョンに世の中どんなことでも起こりうるだろうということを話していて本当にそうなのだな、と、思うアンダーソン監督作品の常態であり、シドニーは天使なのか、渋い天使なのか紳士なのかと思うが彼には彼の過去があり理由があリ、、、クールに自分のスタイルで生きているが訳ありのシドニーもベガスやリノのようなところでぎりぎりなんとかやっていける底辺の1人なんだろうか。所持金6000ドル、カジノを銀行代わりに預けていてその財産をめぐる底辺な人らの死闘。アンダーソン監督作品のキャラクターは深刻な場面でもクスッと笑ってしまう、という場面が多いのだがハードエイトでも、逃亡先どーしようてときにナイアガラの滝?いや俺そこ行ったことあるから嫌だよとマジにもめるような、なんでも起こりうる人生の、ゆるく無意識に笑える弛緩のモーメント。ストーリーや展開もドキドキがあり良いのだが、とにかく冒頭から音楽がかっこいい、スキのないシドニーがやたらかっこいい、最初のダイナー、立ち去るとかまだ暖かい湯気立ち上るコーヒー、ジョンの話を聞きお腹空いてそうなジョンに朝食も奢らずコーヒーカップ二つ残して立ち去る2人。最後はふと昨夜の出来事を物語る白いワイシャツの袖を隠してコーヒーカップをその手で覆うシドニー。どのシーンもちょっとした仕草、所作にその人のその時を感じる、その繊細さをジョンもジミーもクレメンタインも素晴らしい俳優さんたちが演じていて見応えもある。
この映画を見るということは一つの人生の経験になる。生きていくなかで、ふと思い出し、もしかしたらちょっとした助けになることがありそうな。アンダーソン監督作品はどれもそう思わせる。