劇場公開日 2014年8月30日

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「食べるまでの過程」リトル・フォレスト 夏・秋 ぷにゃぷにゃさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0食べるまでの過程

2023年4月13日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

原作者の五十嵐大介の名前は、Eテレの漫勉という番組で知った。絵がうまいが、驚いたことに、ボールペン1本で描いていた。人それぞれ癖や好みがあるだろうが、かなり珍しい。

映画は大きな事件もなく、ひなびた農村でひとり田畑を耕し、収穫した野菜で料理をする、若い女性いち子の姿を淡々と描く。生きることは食べることであり、食べるために働く。作物を育て、自然の実りをちょうだいし、手間と時間をかけて、調理する。そのシンプルな円環を、夏から秋まで、里山の美しい風景とともに写し出す。

太陽が出ている間は、ひたすら働く。水まき、雑草取り、虫取り。日が暮れたら本を読んで過ごす。家の外では、夜の生き物が動き回り、時々物音がする。虫くらいならかわいいが、クマとかだったら…うう怖い。この環境に一人きりって、町育ちには恐ろしいかも。田舎暮らしはヤワではできないと痛感する。

おいしそうなものがたくさん。トマト、甘酒、焼き立てパン、グミの酸っぱいジャム、手作りウスターソース、イワナの塩焼き、くるみごはん、アケビ、栗の渋皮煮…。収穫から調理の工程まで丁寧に映し出され、すごく食べたくなった。

苦労は多そうだけど、いち子が不幸ということはない。幸せそうでもない。ふらりと家を出て行ってしまった母のこと、自分の将来のこと、考えなければいけないことから、目をそらすために動いている感じ。汗水垂らして働けばお腹がすくし、モリモリ食べてよく眠れる。他人に気を使わなくて済むし、自分のペースで暮らせる。そうやって問題を見ないでいるのは、幼なじみのキッコやユウタには見抜かれていて、チクリと指摘されてしまう。確かに逃げてる部分はあるかもしれないが、私はいち子のこと、すごいと思う。チェーンソーで木を切ったり、薪割ったり、重いもの運んだり、みんな自分でやってる。ここで生まれ育ったのはあるけど、根性ないとできないよ。

橋本愛の生真面目そうな、ちょっと硬い感じが、作品に合っていた。美しい風景を背景に、どこか所在なげな表情が、とても自然だった。自転車こいでる時は楽しそうで、かわいかった。

BS松竹東急の放送を録画で鑑賞。

ぷにゃぷにゃ