「.」複製された男 瀬雨伊府 琴さんの映画レビュー(感想・評価)
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自宅にて鑑賞。スペインとカナダの合作で原題"Enemy"。おおよそ内容を反映していない邦題。序盤から不穏なBGMが流れ続ける。D.リンチがよく引き合いに出される一作だが、もっとドライで都会的な雰囲気を持ち親しみ易い印象。工事中の鉄骨を含めた靄がかった都会の風景が佳い。流線型の思わせ振りな給水塔の造形も作為的。蜘蛛のモチーフに対して、クライマックスでの事故後にアップになる放射線状のガラスが恣意的乍ら佳い。一言で「謎」、「意味不明」と切り捨てる事も出来るのだろうが、テイストや画面等、嫌いじゃない。70/100点。
・冒頭のタイトルコール時、J.サラマーゴの原作からの引用"Chaos is order yet undeciphered."が本作を暗示・牽引する。
・当初、“アンソニー”・“アダム”役はJ.バルデムにオファーされたが、テストの段階で不適格となり、その後、C.ベイルにもオファーされたがこちらもスケジュールが合わず、最終的に監督の推すJ.ギレンホールに落ち着いた。
・“アンソニー”と“アダム”を演じたJ.ギレンホールは、同じシーンで二役を演じ分ける際、テニスボールと棒を相手に見立てて演技したらしい。
・きっかけとなる劇中作『道は開かれる "Where There's a Will, There's a Way"』は監督の高校時代の英語教師がよく口にした教訓から採られていると云う。亦、その中でクレジットされており、“アダム”が検索する"bellhops #1"、"bellhops #2"の"Fraser Ash"と"Kevin Krikst"は本作のアソシエイト・プロデューサーである。
・街中を闊歩する異形のモノは、彫刻家L.ブルジョワの代表作で世界各国九箇所(その内の一つは六本木ヒルズ)に展示されている"Maman"からインスパイアされている。
・キャスト陣はクランクインに当たり、プレスを始めとした部外者にその役どころやプロットを口外しないと云う秘密保持の契約を締結したと伝えられている。中でもユニークなのは、私見を含め本作の中で蜘蛛が暗示するモノやその意味を口にする事は厳しく禁じられたらしく、それだけ本作にとって蜘蛛と云うモチーフは大切に扱われた。
・鑑賞日:2017年6月10日(土)