ラン・オールナイト : 映画評論・批評
2015年5月12日更新
2015年5月16日より丸の内ピカデリーほかにてロードショー
殺し屋リーアムが、息子を守りNYを駆け巡る決死のバディ・ムービー
特殊な仕事と家庭との間で揺れる父親を演じさせればリーアム・ニーソンの右に出る者はいないだろう。長身とボクシングで鍛えた身体能力、そこに重厚な演技力が相俟った姿は、まさに説得力のかたまり。本作でもその魅力がいかんなく発揮される。
今回の役どころは古株のニューヨーク・マフィアだ。組織のために殺し屋として暗躍した彼も今では酒に溺れて厄介者扱い。しかし、疎遠となった息子がトラブルに巻き込まれたことで運命の歯車が動き出す。我が子を守るためなら全てを投げ打つと決意する彼。瞬く間にマフィアや警察から追われる身となり、夜を貫く決死の逃走劇が幕を開けることに−−−。
3度目のタッグとなるジャウム・コレット=セラ監督はリーアムの生かし方をよく知っている。壮絶なるカーチェイスや銃撃戦で矢継ぎ早のアクションが展開しようとも、それらは引き立て役に過ぎない。観客はまたしても、その一挙手一投足にほとばしる彼の感情にこそハートを射抜かれてやまないのだ。
そこに共演陣が厚みを加えた。息子役のジョエル・キナマンは家庭を捨てた父を憎みながらも、バディ・ムービーの片割れとして物語に弾みをつける。父子にとって史上最悪の一夜には違いないが、同時にこれは彼らの関係性を取り戻すための最初で最後のチャンス。その意味を「受け」の演技でしっかりと伝えている。
そして何と言ってもエド・ハリスだ。彼演じるマフィアのボスは切れ者だが、デキの悪い自分の愛息が死んだと分かると、手を下したリーアムに牙を剥く。さらに二人が30年来の親友という設定も事態をツイストさせる。2歳違いのベテラン俳優たちはむしろこの葛藤や対決を大いに楽しんでいるかのよう。彼らの醸し出す大人の余裕にビンセント・ドノフリオ、そしてニック・ノルティら更なる夜光虫が引き寄せられるのも無理はない。
こういった芸達者とのやり取りで剥き出しになる悔悟の想い。そして家族を守り抜こうとする覚悟。これらの感情を成立させ、失った父権をもう一度ゼロから積み上げていく姿にリーアムの執念を見た。ニューヨーク全域を舞台にしたこの物語は、ある意味、一晩で全てが変わると信じたオヤジ達のフェアリーテールなのかもしれない。
(牛津厚信)