ネクスト・ゴール! 世界最弱のサッカー代表チーム 0対31からの挑戦 : 映画評論・批評
2014年5月13日更新
2014年5月17日より角川シネマ新宿ほかにてロードショー
サッカーで大事なのは「いかに負けるか」
「強い者が勝つのではなく、勝った者が強いのだ」
フランツ・ベッケンバウアーの言葉だそうだ。しかし、勝った者が強いとは限らないのがサッカーの真実である。“皇帝”の言葉は前半が正しく後半は間違っている。弱くても勝てます、のほうがむしろ競技の本質に近い。
0-31で負けたアメリカ領サモアは、FIFAランキングの最下層だった。誰がどうみても弱い。31失点で負けるチームが強いはずがない。ただ、彼らは終始一貫して強くなろうとしている。その姿勢は強い。戦士の末裔なのだ。勝てなくても戦い続けた。そしてサッカーを楽しんでいた。
国連より加盟国の多いFIFAだが、4年に一度のワールドカップで優勝できるのは1チームしかない。208カ国はどこかで、必ず負ける運命にある。圧倒的多数のチームにとっては必敗の戦いなのだ。負けるまで勝つ、その点はアメリカ領サモアと何ら変わらない。
国を背負って戦う代表選手は、誰もが「勝つために」プレーすると言うだろう。でも、本当はそうではないはずだ。最初から負けることは決まっているのだから。勝利がすべてなら、サッカーは虚しすぎる。そこそこ実力があるのに、31失点したGKは世界最低の烙印を押された。1人だけ頑張ってもどうにもならない。勝ちたいだけならサッカーより個人競技をやるべきなのだ。なのに、世界中の人々は今日もボールを蹴っている。アメリカ領サモアの人々もそうだ。なぜなのか? その答えは、たぶんこの作品の中に見つけられるだろう。勝敗は相対的な強弱にすぎない。アメリカ領サモア人のしなやかな強さは、負けてもなお維持されている。死ぬとわかっていることは、生きる妨げにならないのだ。
弱い者が負けるのではなく、ほぼ全員が負ける。そして素晴らしい負け方をする者もいる。
(西部謙司)