「文学的で哲学的で幻想的な」リスボンに誘われて つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
文学的で哲学的で幻想的な
文学的で哲学的で、ちょっと不思議で幻想的な雰囲気で始まり、ポルトガルの歴史の一端をかすめながらサスペンスフルに展開していくドラマ。そして再び文学的で哲学的にエンディングを迎える良作。
あれこれ考えるばかりで自分の中のモヤモヤの正体すら掴めずにいたライムントは偶然手にした本の中に書かれていたことが自分の考えていたことと同じだったこととに感銘をうけ、本の作者を訪ねることにする。
本人がすでになくなっていたため、ライムントの旅は当時のアマデウを知る人物を訪ねるものに変わり、アマデウの人物像や彼も参加していた反政府組織の活動などを知ることになる。
と同時に、ライムントの訪問を受けた人々は当時を振り返りながら今まで抱えていた陰鬱なものを消化し受け入れ乗り越えていくのだが、これはアマデウがライムントを介した導きだったように思う。
そして導き手となっていたライムントもアマデウに導かれた一人だ。
冒頭の授業シーンの中で、古代ローマ人は考えることと行動は同じだという。それはつまり現代人は考えることに行動が伴うかどうかは別だということだ。
今まで考えるだけで行動が伴わなかったライムントは元妻から「退屈な人」と評されるが、この旅そのものや、「やっと誘いましたね」のような行動により「退屈ではない人」に変わった。
草原の緑よりもそれを描いた絵画の緑の方が美しいという言葉が出てくる。現実よりも理想の方が美しいということだと思う。
理想を想い描いて反政府活動をしていた人々の今の現実に、想像していた美しさはないかもしれないけれど、考えるだけで立ち止まってはいけない。
ほぼ全ての登場人物がアマデウの導きで一歩を踏み出す。文学的で哲学的で幻想的な、「面白く興味深い言葉」の多い作品だった。