「日常が変る時・・」リスボンに誘われて odeonzaさんの映画レビュー(感想・評価)
日常が変る時・・
クリックして本文を読む
原題は原作小説と同じNight Train to Lisbon(リスボン行きの夜行列車)、スイスのベルンからポルトガルのリスボンまではフランス、スペイン経由でおよそ1700km、今は無き寝台特急の富士が24時間かけて東京~西鹿児島1600km位だったから驚くほどの旅ではない、会社帰りに新橋駅のホームで走り去ってゆくブルートレインのテールランプを見送って、ふと日常から逃れてこのまま旅に出られたらと想像していた若い頃の衝動が蘇ってきた。
主人公が知的好奇心に突き動かされ人々を訪ね歩く展開は上質なサスペンスにも似た高揚感があるから不思議だ。導入部も上手い、橋から飛び降りようとしている若い女性を助けるが赤いコートを残して失踪してしまう。コートのポケットから出てきたのがリスボン行きのチケットが挟まった小さな本、アマデウ・イナシオ・デ・アルメイダ・プラド著「UM OURIVES DAS PALAVRAS(言葉の金細工師)」という哲学的な私小説だ。著者の人生哲学と半生に惹かれ運命に操られるような旅が始まる。自分探しと言うにはちょっとお歳を召しているが知的で不器用な所は万年青年と言えなくもない。物語の焦点は過去に遡りポルトガルの圧政、サラザール政権の独裁、弾圧時代から1974年のカーネーション革命までのレジスタンス運動にシフトする。アマデウの純粋さ故に別れを告げたエステファニアの胸の内も痛いほど分かる、赤いコートの女性の謎も解け自身も良き理解者に恵まれる、その先はあえて描かず余韻を残すところも素晴らしい。
紀行映画にも負けない風景描写、抑えた静かな演技、高い格調が感じられる秀作でした。
コメントする