「人生もう一度始められる応援歌」はじまりのうた 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
人生もう一度始められる応援歌
失恋で失意のシンガーソングライターと落ち目の音楽プロデューサーが出会って…。
「ONCE ダブリンの街角で」のジョン・カーニー監督が再び奏でる珠玉の音楽映画。
ズバリ、一言で感想を述べると…
良作!
鑑賞中はずっと心地良く、見終わった後もいい気分に浸れる。
映画好きもしくは音楽好きで本作を悪く言う人はそうそう居ないだろう。
「ONCE~」でもそうだが、この監督の“人”と“街”と“音楽”の描き方が本当に魅力的。
登場人物への暖かい眼差し。
その登場人物らの目線による、身近で生活感息づく街並み。
そして心に染み入る曲の数々と、溢れんばかりの音楽への愛。
「ONCE~」同様、本作も評判が評判を呼んで口コミヒット。
愛される理由がそこにある。
物語の入り方も巧い。
シンガーソングライターのグレタと音楽プロデューサーのダン。二人が出会うまでをそれぞれの視点からまず描く。
共に、人生行き詰まり、どん詰まり。
たまたまバーで(嫌々)歌った。
たまたまそれを聞いた。
映画的ご都合主義と言うなら言えばいい。
人生ふとしたきっかけで、人生が変わるチャンスが近くにある。
グレタの歌に絶対的な可能性を感じたダンはアルバム製作を提案するが、資金もレーベルも無い。(ダンはクビになったばかり)
そこで街中でゲリラ・レコーディングをする。
街中と言っても、路地裏や公園やビルの屋上など。
ここがユニーク。
ゲリラなので、「うるさい!」と怒鳴られたり、警察を呼ばれたり。
後ろ楯は無いが、友や仲間が居る。
グレタの友人やかつてダンに世話になったミュージシャンが協力してくれる。
こういう時こそ、人の繋がりを感じる。
レコーディングには仕事の無いミュージシャンやそこら辺のガキんちょも飛び入り参加。ダンの折り合いの悪い娘も。
この街の至るところで、皆で作った歌。
人の温もり、街のそのままの雰囲気、たくさんの思いが込められた歌は聞く者の心を魅了して離さない。
キーラ・ナイトレイの歌の上手さに驚き!
こんなに歌上手かったけ…? 歌を歌う映画に出てたっけ…?
序盤は哀愁しか感じないが、どんどん情熱を燃やすマーク・ラファロの好演も絶品。
本作を彩る歌の数々がどれも素晴らしい。
冒頭のグレタの弾き語り、グレタが元カレへ即興で作った歌、元カレがのラストのステージの歌、そして勿論アルバム…。
甲乙付け難い!
グレタの元カレへの未練。
ダンとその家族。
グレタとダンの関係。
いずれも個人的に好感持てる着地だったのがまた良かった。
人生また再起できる。必ずチャンスが訪れる。
ベタで普遍的かもしれないが、押し付けがましいメッセージじゃないのがいい。
もう一度始められる応援歌。