劇場公開日 2014年12月12日

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「夫婦とは何かを考えるマスターピースだ」ゴーン・ガール あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0夫婦とは何かを考えるマスターピースだ

2019年6月13日
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鑑賞方法:DVD/BD

強烈な映画だ
圧倒的な恐ろしい結婚の現実
21世紀の「バージニアウルフなんか怖くない」だ

異常性格のサイコスリラーという魚眼レンズで、結婚の現実を撮るとこのように見えるのだ

冒頭とラストシーンのエイミーの頭のシーン
同じ映像であっても、これ程も違って見えるのだ

冒頭では甘い愛情をもった眼差しだ
その美しい形の頭の中にあるものを見てみたい
恋愛中なら自然な感情だ
砂糖の粉が降る中のキスシーンはこれ以上無いロマンチックなものだ
互いの心の中に深く刻まれる思い出だ

その同じ映像と台詞が2時間半の本作を観終わった時、私達は背筋が凍るものに見え、聴こえるのだ

結婚前の甘い記憶も、結婚後の日常を積み重ねた先にある結末の到達点はここなのだ

エイミーの綴る日記はフェイクのようで真実だ
ニックの振る舞い、言動は我が身を振り返って針のむしろであった男性が大多数だろう
聖人のような男性は存在するのだろうか?

しかし、それは鏡のように反射し我が身につきささり、結局は距離が生まれついには浮気に至る
そして妻の反撃がある
作用反作用の法則のように必然的だ

それでも大抵の夫婦は円満に老後を迎える
何が違うのだろうか

結婚前の甘いロマンチックな思い出と感情は真実のものだ
だけど日常の現実も真実なのだ
背伸びする日常、こうあるべきの日常なんて無理な話だ

お互いに楽な関係、ダメな自分をさらけ出せる関係でなければ、支配し支配される闘争になる他無い
そのことを理解しあえる夫婦であるだろうか?

そのような思いがぐるぐるといつまでも胸中で渦巻く
もちろん、それもまた男女それぞれ別の感慨をもって本作を観終わるのだろう

熟年離婚が多いとは、エイミーとニックが無数にいるという証左だ
いや本作のニックとエイミーのように離婚しなくて添い遂げるようになっている夫婦が多いのかも知れない
本作の魚眼レンズを取り去った時の現実の世の中だ
虚無的な感慨が残された
未婚者には夢も希望もない話だ

記者会見に望むニックの話し方の特訓は男性陣には大いに参考になるだろう
このように女性に通じる話し方をしているだろうか
頭の中に中で、自分にグミを投げるようにしていきたいものだ

監督の手腕は大変に優れており安定している
女性刑事の演出は見事だ
かってのベテラン男性刑事がタバコを咥えながら捜査したように彼女はスターバックスのコーヒーを常に持ちながら捜査する

音楽がまた秀逸だ
現代音楽のような不気味な電子音が違和感を常に観客に訴える

映像もまた彩度がわざと落とされている
監督の持ち味といえばそれまでだが、この彩度が本作の雰囲気を見事に支配している

夫婦とは何かを考えるマスターピースだろう
まさに同じテーマの60年代の傑作映画「バージニアウルフなんか怖くない」の再来だ

あき240