「95年の人生を懸けて。」マンデラ 自由への長い道 ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
95年の人生を懸けて。
ネルソン・マンデラ氏の自伝を基に描いているだけあって、
おそらく彼の実像に最も近いのだろう。
今作では彼を聖人だとは描いておらず、反アパルトヘイトを
掲げるアフリカ民族会議(ANC)に身を投じた彼が、
政治活動に傾倒していく様子が冒頭から色濃く描かれていく。
非暴力主義を貫くことの限界、過激な武装闘争に身を投じて
テロ活動を行うしかなくなった彼らの選択には胸が痛くなる。
なぜ、どうして、ここまで黒人が差別され卑下されるのか。
どんな疑問を抱こうとも、法すら解決してくれない時代。
彼が生きた時代の恐ろしさとおぞましさ。
自身の活動によって家族との縁が薄くなり、結婚しても
結局破綻する。冒頭とラストで彼が回想する幼い頃の家族、
皆が笑い合い、一緒に食卓を囲む風景が遠くに霞んで見える。
どれほど長い闘争が続き、どれほどの自由が奪われ続けたか、
人々はその環境で得た苦しみを、何か憎むことでしか復讐を
成し得ないものだろうか。2番目の妻ウィニーとマンデラが
相反する決意を浮かべたあたりから、難しさが充満してくる。
ずっと闘ってきた人間と、これからを考える立場にいる人間。
目には目を。歯には歯を。そうしなければいつか殺される。
それが唯一の生きる糧だった妻にマンデラが告げたこととは。
アンタはのんびりトマト栽培かよ。それでいいのか?と訴える
若者に対し、後に釈放されたマンデラが実現させたこととは。
少し前に観た映画で(今作と比べるのもどうかとは思うけど)
母親と息子の人生を引き裂いたシスターに対して、その母親が
下した判断を思い出す。罵声を浴びせても、法に訴えてもいい
その立場で、母親がシスターに下したのは全ての赦しだった。
憎しみを終わらせることは難しい、恨んでも殺しても癒えない
その苦しみをどうしたら受容や赦しの心に転化できるんだろう。
彼の演説をじっと部屋で聞いているウィニーの姿が映った時、
いままでの彼の云わんとすることが通じてくれれば、と思った。
無条件で相手を受け容れることから理解は育まれていくのだと
人間マンデラは95年の人生を懸けて、私達に教えてくれている。
(ボノが書き下ろした「オーディナリー・ラヴ」が、また素晴らしい)