「斬新な試みが成功している」オール・イズ・ロスト 最後の手紙 Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
斬新な試みが成功している
総合:80点 ( ストーリー:80点|キャスト:80点|演出:85点|ビジュアル:85点|音楽:65点 )
美しい映像と、どうやって撮影したのかと思う技法と、大胆な物語と演出に驚いた。色んな点で斬新な作品だった。
何せ最初から最後まで登場人物はたったの1人だけで、後半になって誰かが出てきたり主人公は救出されるのだろうという予想は見事に外れた。そして1人しか登場しないのならば退屈しそうと思いきや、全く退屈しない。主人公は通信装置もないまま海の真ん中にそもそも1人きりだから、時々上手くいかないことに悪態をつく以外はろくに喋ることすらしない。それなのに次々に降りかかる困難とそれへの対処に1人孤独に取り組む主人公の姿を追う演出に、彼が今何をしているのか、上手く対処できるのかと引き込まれる。年老いたレッドフォードが体を張って頑張っていた。
それを表現する撮影技法が実に洗練されている。美しい海を空から海上から海中から撮影し、帆柱に上る・海中に落ちる・船の操縦をするといった主人公の行動を、時に美しく時に荒々しく映像に残していく。海中から浮かぶ船底と小魚の群れと小魚を追う鬼カマスを撮影していたり、嵐の大波に翻弄される姿が映し出されてり、様々な場面をいろんな角度から見せてくれる。船が転覆して天地がひっくり返ったり主人公が海中に落ちたりする場面はどうやって撮影したのだろうか。
そして最後はいったい何をしているのかと思って最初は戸惑った。この手の作品で1人の登場人物だけで作品が終わるとは予想もしていなくて、だから夜中に自らの命を支える救命艇に火をつけるということは、近くに船が来ていてそれに発見してもらい救助してもらうためにしたのだと勝手に思っていた。何もないままに沈んでいく姿に、これでは自殺行為ではないかと思った。
救助もなく他の登場人物もないままに作品が終わるとは想定外で、これにはやられた。だが何が起きているのか理解したときには、その儚さと美しさの中にしんみりとした余韻があった。
だが観直してみたら、最初は月の光だろうと勘違いしていたが火をつける前に水平線の遠くに光が見えていたので、それに気が付いてもらえるように火をつけたのだというのがわかった。わざわざ主人公が海の奥に向かって沈むから紛らわしいくて勝手に勘違いしていたが、小型船と照明に向かって浮き上がる主人公で終わるこの結末は、これはこれでいいかとも思う。