「究極の漁夫の利」新しき世界 ロロ・トマシさんの映画レビュー(感想・評価)
究極の漁夫の利
冒頭が、イキナリ拷問された直後の男の血糊顔面ドアップから入ったものですから「あっ、これエグめのバイオレンス映画か?」て少し身構えたんですよ。別にバイオレンス自体が苦手って訳でもないんですけど、気分がそっち方面の心構えじゃなかったものですから。でも話が始まっていくとメインがそっちじゃなくてね。疲弊しきった一人の潜入捜査官のヒリヒリした精神状態を軸にしたクライムアクションというか。つまりはそういう世界に主人公は身を投じているんだよ、という分かり易い象徴的なシーンだった訳ですね。件の拷問は。
主人公の潜入捜査官はヤクザ組織壊滅の為に10年近く潜入しちゃってるんで、もうバンバン手ぇ出しちゃってるんですよね。暴力とか裏稼業に。目も背けたくなる修羅場を何十回何百回と潜ってて、しかもいつ身バレするか分からないという極限状態で神経がかなり衰弱してるという。まあ10年ですからね。キツいですよ10年間モチベーション保つのは。抜けたいのに、そこで自分の地位もかなり引き返せないトコまで上がってっちゃって。だけど、警察の任務は遂行しなければならない。だけど、逃げ出したい。だけど、ヤクザの兄貴には義理がある。だけど。だけど。だけどだらけで観てる方も息が詰まる訳です。
そんな彼に直属の上司は途中退場を許さないんですよね。非情に秘密裏に作戦を重ねて行き、組織の内部崩壊を目論む。この上司も一見して嫌な奴なんですが、実際は彼も精神を病んでるっぽいという。そういう状態でヤクザ組織内部で不穏の動きが活発化してくという。ストーリーのテンションはドンドン上がってくという。
その荒波にただただ翻弄されてく主人公。
展開としてはそれほど捻じれてないですね。気を衒ってもないし、どんでん返しがある訳でもない。主人公の疲弊感が高まる中、ヤクザ同士の内部抗争があれよあれよと拡大していく。
だからこの映画、潜入捜査という題材から頻繁に『インファナル・アフェア』を取り上げられて比較されるんですけど、自分はそっちよりも、あれですね。『預言者』の方がまず頭に浮かびました。刑務所内で一人の青年が裏社会のノウハウを覚えてトントン拍子で出世していくっていう。肌触りとしてはそっちに近さを感じました。
で、何て言うかこう、最後はブラックな、少し後ろ暗い爽快感?というか。気分が良いんだか悪いんだかよく分からない、でも何故かこちらの溜飲が下がって行く結末というかね。
ちょいと不思議な余韻を残す映画でした。