劇場公開日 2016年7月16日

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「水の表現が素晴らしい」ファインディング・ドリー アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0水の表現が素晴らしい

2016年8月4日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

楽しい

3D 吹き替え版を鑑賞。前作ファインディング・ニモは 2003 年の公開であるので,今から 13 年前であった。中学生だった息子と見に行った覚えがある。息子を捜して長旅をするカクレクマノミの父親の話ということで,非常に感情移入し易かった映画であった。ドリーはサブキャラとして登場するナンヨウハギのメスで,常にハイテンションで頭の切れが抜群で,物語のチアリーダー的な存在であった。本作は前作の1年後の話で,ドリーに焦点を当てた続編である。

ドリーは文字が読めたり,クジラ語が話せるなど,非常に頭が良いのだが,その一方で健忘症を患っていて,たった今話していたことさえ忘れてしまうという設定になっている。これは前作でも同様であった。まさに若年性アルツハイマー患者を見ているような気がして,笑いのネタにするにはちょっと気が引ける設定である。健忘症でなくてはならなかった訳は,この続編を作るためだったのではないかという気がするほど,話の導入には良いのだが,本編中そのエピソードが頻出するので,どうにも笑いのツボとしてはスベっている感じがした。

映像は,何と言っても水の表現が素晴らしかった。特に,水中の浮遊物まで丁寧に描いてあったために,3D の奥行き感を表現するのに役立っていたように思う。一口に水と言っても,奇麗な外洋や水槽の水もあれば,掃除用のバケツに入った汚れた水まで出て来るのだが,とにかくその色合いや透明度などの表現には舌を巻いた。動物については魚や海亀なども素晴らしかったが,主要なキャラであるタコの見事さには驚嘆させられた。

脚本は,やや盛り過ぎの感もあったが,思いがけず,途中で「幸せの黄色いハンカチ」を彷彿とさせるようなシーンに出くわして,不意打ちを食らって涙ぐんでしまった。(つД`;) こういう心の琴線に触れるような脚本は好きである。この点に免じて,最後の方のハチャメチャな展開には目を瞑ってやっても良い。

問題は,吹き替えの演出と台本である。本来は,カリフォルニアの水族館が舞台なのに,日本語吹き替え版では建物名や行き先表示板などが全て日本語表記になっているため,どう見ても日本の水族館にしか見えないのであるが,一部の魚をフィラデルフィアの水族館に移すという台詞がそのまま使われ,その移送手段がトラックだと言うのだから目が点になった。フィラデルフィアの水族館のシーンが出て来る訳ではなかったのだから,ここは日本のどこかにしておいた方が良かったのではないだろうか?

また,館内アナウンスの声が八代亜紀というのは別にいいのだが,自分を八代亜紀と名乗っているのがまた違和感を全開にしてくれた。ますます日本の水族館にしか思えないではないか。どうやら,各国語の吹き替え版を作る時は,このアナウンス役を有名人に当てるようにという指示があるらしいのだが,その演出はかなり問題があると思った。

吹き替えは,ドリーの室井滋やニモの父親マーリンの木梨憲武は前作からの継続で,それぞれいい味わいを出していたと思うが,室井滋の声はあまりに独特なので,あの顔が容易に浮かんで来てしまうのがちょっと難点ではと思った。今作初登場となるのはタコの上川達也とジンベエザメの中村アンで,それぞれかなり健闘していたと思った。特にジンベエザメは,人の良さが感じられるような声で非常に好感が持てた。

音楽は前作から引き続きトーマス・ニューマンが手堅い曲を書いていた。エンドタイトルで流れる曲がジャズの名曲 Unforgettable(邦題:忘れられない人)というのには吹き出してしまった。さらに,本家の歌唱に引き続いて八代亜紀の歌う Unforgettable が聴けるのは吹き替え版だけのオマケのようなものだったのかも知れない。エンドクレジットの最後にオマケ映像があるので,最後まで席を立たないようにとご忠告申し上げたい。
(映像5+脚本4+役者4+音楽4+演出4)×4= 84 点。

アラカン