インサイド・ヘッド : 映画評論・批評
2015年7月14日更新
2015年7月18日よりTOHOシネマズ日本橋ほかにてロードショー
ピクサーの新境地 思春期の戸惑いと成長を脳内アドベンチャーに重ねて描く
世界初のフルCG長編アニメ「トイ・ストーリー」を1995年にリリースして以来、おもちゃや車、昆虫や魚などさまざまなものに人格を与え、彼らが感情豊かに関わり合う上質のストーリーを紡いできたピクサー・アニメーション・スタジオ。同社の20周年作品で、“感情”そのものを複数のキャラクターで表現するというコンセプトを初めて知ったとき、「今度はそう来るか!」という期待と、「ファミリー層には難解かも?」との懸念が相半ばした。
物語の外側=人間世界の主人公は11歳の少女ライリー。ミネソタの田舎町で両親の愛を一身に受けてすこやかに育ってきたが、家族で引っ越したサンフランシスコでの暮らしに馴染めず、気持ちが不安定になる。
この辺から、ライリーの内側=脳内世界のヨロコビ、カナシミ、イカリなど5つの感情たちがダイナミックに動き出す。彼らがいる司令部から、ある事件によってヨロコビとカナシミが放り出され、広大な思い出保管所に迷い込んでしまう。感情の制御がきかなくなったライリーを救うために、ヨロコビたちは司令部に戻ろうと駆け回るが……。
ライリーの外側で起きるドラマと内側の感情たちによる冒険が、相互作用しながら平行して進む――聞いただけでは複雑そうだが、実際に観てみると、繊細な表現で魅力的に描かれたキャラクターたちと、心理学などを踏まえた深みある設定、創造性に富んだ展開に94分間引き込まれっぱなし。CG描画の面でも、うっとりするほどリアルな質感を伴うサンフランシスコの街並み、柔らかい光の粒で描かれた感情キャラたちの揺れる髪、さりげなく視線をいざなう仮想カメラの滑らかなポジション移動など、技術の進歩を印象づけるビジュアルと卓越した演出センスが随所に光る。
懸念は杞憂だった。子供ならかわいいキャラたちに歓喜しそうだし、大人なら感情を持て余した思春期を懐かしんだり、わが子や親との関係を愛おしく思ったりするはず。鑑賞後は、頭の中が解きほぐされ、心がふわりと軽くなった。「モンスターズ・インク」「カールじいさんの空飛ぶ家」のピート・ドクター監督にとって本作は、興収・評価の両面で新たな代表作となりそうだ。
(高森郁哉)