劇場公開日 2014年5月3日

  • 予告編を見る

プリズナーズ : 映画評論・批評

2014年4月28日更新

2014年5月3日より新宿ピカデリーほかにてロードショー

「羊たちの沈黙」や「セブン」に匹敵する極上のスリラー

2時間半以上の長尺。監督は本作でハリウッド初進出となったカナダ人監督ドゥニ・ビルヌーブ。原作なしの完全オリジナルストーリー。6歳と7歳の少女2人が失踪するという物語もヘビーだが、その後の暴力描写はさらにヘビー。こんなシリアスでハードな作品を興収初登場ナンバー1に送り込んでしまうアメリカの「普通の観客」のレベルの高さと胃袋のタフさに、まずは驚かされる。新聞やテレビやネットのレビューを参考にして映画館に出かける層がいまでもマジョリティを占めるアメリカの観客は、批評家たちが本作に寄せた絶賛の声に敏感に反応したのだ。

その通り。この「プリズナーズ」、とにかくストーリーが滅法面白い。広い意味ではサイコスリラーに分類することも可能なのだが、その面白さと緻密なサスペンスと作品の風格は、同ジャンルにおける90年代以降のエポックメイキングな作品、たとえば「羊たちの沈黙」や「セブン」や「殺人の追憶」といった傑作群に匹敵する。その上で、ヒュー・ジャックマンジェイク・ギレンホール、二人のスターアクターがキャリア最高の演技を披露する濃密なヒューマンドラマである本作は、観客の一人一人に次のような重い問いを投げかけてくる。「もし最愛の子供が誰かに誘拐されたとしたら、あなたはどうするか?」。

画像1

日本人の多くは、本作でヒュー・ジャックマンが演じている主人公のように、リバタリアニズム(完全自由主義)という極めてアメリカ的な思想を持ち合わせていないし、それを体現するだけの強靭な肉体も武器も持ち合わせていないだろう。はたして、それは幸福なことなのか、それとも不幸なことなのか。次第にエスカレートしていく主人公の行動、そして二転三転する驚きに満ちたストーリー展開に、観客の感情は最後まで常に揺さぶられ続ける。そして、登場人物の誰もが身体的、もしくは精神的に無傷ではいられなかったように、本作は確実にあなたの心にも大きな傷跡を残すことだろう。今年度屈指のサスペンス/スリラー作品であると断言したい。

宇野維正

Amazonで今すぐ購入

関連ニュース

関連ニュースをもっと読む
「プリズナーズ」の作品トップへ